原子力損害賠償(2012年6月27日現在)

第1 原子力損害の賠償に関する法律(以下、原賠法という)

H23.3.11 東日本大震災により発生した福島原発事故に伴う原子力損害についての賠償責任に関する法律

Ⅰ 目的

・原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合
被害者の保護
原子力事業の健全な発達に資すること

・原賠法は被害者の保護と原子力事業の健全な発達の2つの目的は同等の重点が与えられているが、原子力損害賠償紛争審査会が公表した中間指針においては、「被害者の救済」が強調されており、被害者の損害賠償を広く認めている。

・原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る
原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。
 但し、その損害が異状に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるときは、この限りでない。

Ⅱ.定義

(1)「原子炉の運転等」とは、次の各号に揚げるもの及びこれらに付随する核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含む)の運搬、貯蔵又は廃棄であって、政令で定めるものをいう。

 一.  原子炉の運転
二   加工
三.  再処理
四.  核燃料物質の使用
四の二.使用済み燃料の貯蔵
五.  核燃料物質又は核燃料物質によって汚染されたもの(核燃料物質等という)の廃棄

原賠法施行令

原賠法第2条第1項に規定する政令で定めるものは、次の行為(第1号から第5号までに揚げる行為については、それぞれ当該行為が行われる工場又は事業所(原子力船の場合は船舶)において、当該行為に付随する第6号イからハまでに揚げる物の運搬、貯蔵又は廃棄を含む)とする。

 一.  原子炉の運転
二~四.(略)
四の二.使用済燃料の貯蔵
五~六.(略)

(2)「原子力損害」とは、核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用、若しくは毒性的作用(これらを摂取し、又は吸入することにより、人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう)により生じた損害をいう。

ただし、次条の規定により
①核燃料物質の原子核分裂の過程の作用により生じた損害
②核燃料物質または核燃料物質によって汚染された物の放射線の作用によって生じた損害
③核燃料物質または核燃料物質によって汚染された物の毒性的作用
(これらを摂取し、又は吸入することにより、人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう)により生じた損害

①とは、
原子核分裂の連鎖反応に際して発生する放射線による損害およびその際に発生する熱的エネルギーまたは機械的エネルギーによる損害をいう

②とは、
ⓐ.核燃料物質の原子核分裂の連鎖反応に際して放射化された物(核燃料物質によって汚染された物)の放射線による損害
Ⓑ.核燃料物質の原子核分裂の連鎖反応により生じた原子核分裂性生物の放射線による損害
ⓒ.核燃料物質の放射線による損害

③とは、
例えば、プルトニウム等を摂取し、または吸入することによって発生する中毒及びその続発性(腎臓機能障害等)である

福島原発事故に伴う損害は、現状では、①または②に該当する

・原子力損害は、「・・・・・核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用」によるとされているが、この「作用」とは「放射線の作用」というように、放射線を物理的に侵害があったことによる損害を意味するのではなく(立法当時の解釈の可能性ある)、相当因果関係のある損害はすべて含まれる

身体的損害
物的損害
逸失利益等のいわゆる間接損害も含まれる
風評被害
東海村の株式会社JCOの臨海事故によって生じた納豆製品についての風評被害について、東京地判H18.4.19(判時N0.1960、P64)は、風評被害も原子力損害になると判断している

(3)「原子力事業者」とは、次の各号に揚げる者に(これらの者であった者を含む)

①原子炉の設置許可を受けた者(核原料物質・・・規制に関する法律§23、I)
②核燃料物質の加工の事業の許可を受けた者(規制法§13.1)
③使用済み燃料の貯蔵の事業の許可を受けた者(規制法§43のIV、I)
④使用済み燃料の再処理の事業の指定を受けた者(規制法§44、I)
⑤核燃料物質または核燃料物質によって汚染された物の廃棄の事業の許可を受けた者(規制法§51のⅡ、I)
⑥核燃料物質の使用の許可を受けた者(規制法§52、I)等

注意点
原子力発電所の事業所単位で許可を取り「原子力事業者」となっている(規制法§23、I、H)
即ち、福島第一原子力発電所と福島第二原子力発電所は、別の原子力事業者となる。
しかし、同一の事業者が経営していることになる(東京電力)

Ⅲ.無過失責任と異常に巨大な天災地変

1.無過失賠償責任

原賠法3条は、「原子力事業者」の「原子炉の運転等」と「原子力損害」の発生との間に相当因果関係があれば、「原子力事業者」の主観的要素(故意、過失、重過失等)の如何にかかわらず、無過失賠償責任を規定している

2. 民法上の不法行為責任との関係

原賠法は「責任集中原則(法§3、I、4、I)により、民法上の損害賠償に関する規定の特則である。
責任発生の要件と関連する民法§709、715、717の規定の適用は排除される。

3. 相当因果関係

・原賠法§3、Iの規定「~により」からして、相当因果関係にある損害賠償をする
・民法§416条の類推適用をする
・中間指針では、一定類型の損害については、因果関係の立証を緩和されている。

Ⅳ.異状に巨大な天災地変または社会的動乱(原賠法3条1項但書)

(1)定義について

・危険責任に基づく損害を限定した免責規定

・「異状に巨大な天災地変」とは、「歴史上例のみなれない大地震、大噴火、大風水災等」と定義されている(原子力賠償制度一科学技術庁原子力局監修)

・「異状に巨大な天災地変」に該当する場合は免責され、原賠法17条により、「政府は・・・・被害者の救助及び被害の拡大防止のため必要な措置を講ずるようにする」

・「社会的動乱」も質的、量的に「異状に巨大な天災地変」に相当する社会的事件であることを要する

「戦争、海外からの武力攻撃、内乱等がこれらに該当するが、局地的な暴動、蜂起等はこれに含まれないと考えられる(原子力賠償制度)」

(2)関東大震災との比較

・S36.5.23 杠文部科学技術庁原子力局長
関東大震災の3、4倍に当たるような天災地変等

・何か3倍ということか
・マグニチュード(地震のエネルギーを示す指標)を基準に3倍と考えれば、大正12.9.1(土曜日)午前11時58分32秒、マグニチュード7.9東日本大震災

マグニチュード9

マグニチュードが1増えるとエネルギーは101.5×1(およそ31.6228倍)となり、関東大震災の約45倍のマグニチュードである

震度を基準とした場合

・東日本大震災は三陸沖で震度7を記録
・関東大震災においても震度7の地域もあった震度からすれば、関東大震災の3倍とまではいえない

加速度を基準とした場合

東日本大震災は最大2933ガル(暫定値)
関東大震災は公式デー夕がないものの200ガル程度とされている

歴史上の基準

東日本大震災のマグニチュードは9.0
S35年のチリ地震9.5(マグニチュード)
S39年のアラスカ地震9.2(マグニチュード)
H16年のインドネシア、スマトラ沖地震9.1(マグニチュード)
観測史上世界4番目の規模であり、東日本大震災は「想像を絶する」地震とはいえず、「異状に巨大な天災地変」には該当しない一政府見解

(3)不可抗力

(ア)不可抗力の定義一「異状に巨大な天災地変」は不可抗力を更に限定したものであるので、「不可抗力」検討
「不可抗力とは、外部からくる事実であって、取引上要求できる注意や予防方法を講じても防止出来ないものである」 「大地震、大水害などの災害や、戦争、動乱などが代表的な例とされる。単なる第三者の行為などは、通常、不可抗力とはいわない」
不可抗力というためには、単に大地震、大水害などの災害や戦争、動乱などの外部的な事情が生じたことだけではなく、合理的に予見可能な結果回避措置をとっていたことが必要になると考えられる。
福島原発事故においては、直接的には14m以上といわれる津波による被害によりもたらされたことに鑑みると、津波対策が不十分であったと言うことで、「不可抗力」ではなく、東京電力に結果回避のための予見可能な合理的な措置をとらなかったという過失と原子力損害の間に因果関係があったのではないかということが問題となる。

(イ)津波への対応措置
・S41設置許可申請時(東京電力)
(ⅰ)S39年のチリ地震津波での水位変動を考慮して、小名浜地方 の年平均潮位により3.1m高い水位を想定
(ⅱ)H14土木学会「原子力発電所の津波評価技術」をまとめる 東京電力は安全性評価見直し津波の最大高さを5.7mとした
(ⅲ)H21.6.24総合資源エネルギー調査会原子力安全保安部会耐震措置設計小委員会、地震、津波、地質、地盤合同ワーキンググループにおいて、岡村行信委員(地質学者)は、政府の想定しているプレート間地震は1930年代の塩屋崎地震(マグニチュード7.36程度)であるところ、歴史上にあった貞観の地震(869年)のマグニチュード8.5前後であったから、これを前提とした対策を講じるべきではないかと指摘
(ⅳ) 福島第一原子力発電所を襲った津波の高さは14mを超えたが東北電力女川原子力発電所の津波は17mクラスであって、女川原発の安全審査で想定した津波の高さは9.1mであった
(V)東京電力はH23.8.24公表
 津波は最大10.2m押し寄せる水の高さは15.7mとなる可能性になることをH20年試算不可抗力に該当しない可能性あり合理的に予見可能な結果回避措置がとられない

(ウ)原子力安全委員会の「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」
 H2年に定めた上記安全指針の項目の一つである「電源喪失に対する設計上の考慮」では、外部電源などでの全交流電源が短時間喪失した場治に、原子炉を安全に停止し、その後の冷却を確保できる設計であることを要求しているが、その解説で、長期間の電源喪失は「送電線の復旧または非常用交流電源設備の復旧が期待できるので考慮する必要はない」としている。
事故は地震後に外部電源が切れ非常用電源も機動しない状況が続いて事故が発生したが、前記の国の指針に照らせば、原子力事業者である福島第一原子力発電所に過失がなかったとも評価できる。

(4)政府の立場

H23.5.2予算委員会における福島みずほ議員に対する枝野官房長官の答弁において、
「異状に巨大な天災地変について、人類の予想していないような大きなものであり、全く想像を絶するような事態である」従って、但書に当る可能性はない。

(5)金融機関の考え方

H23.4.15全国銀行協会会長が見解(電力新聞)
「原賠法は被害者の早期救済と原子力事業者の健全な発展という2つの目的がある」「我々からみると東京電力のみならず各地の電力事業者が市場で自立できる財務内容を保つことが『健全な発展』と考えられる」異状に巨大な天災地変に該当する。

(6)東京電力の立場

「異状に巨大な天災地変」に該当するという立場であったが、国(原子力損害賠償支援機構)から支援を受けるにあたって、この主張は表立っては主張していない。

IV.責任の集中

1.意義、趣旨

(1)原賠法§4、Iは、「責任集中原則」を規定している。
(2)責任集中原則は、
 ①原子力事業者以外は責任を負わないこと
②原賠法上の損害賠償のみが認められるという二つの意味がある。

2.「責任集中原則」の趣旨

 ①責任を集中させた方が被害者が賠償請求の相手方を容易に認識することが出来る。
②原子力事業者に機器等を提供している関連事業者の地位を安定させ、原子力事業の発展を図る。

3.他の立法例

(1)責任集中原則は
 ①原子力損害賠償に関する改正パリ条約、改正ウィーン条約、補完条約など国際条約
②フランス、スイス等も同様

(2)日本の原賠法のモデルとなったとされる米国のブライス・アンダーソン法は、これとは若干異なる「経済的責任集中原則」がとられている。
原子力事業者以外の者も第三者から損害賠償請求を受けうるものの、原子力事業者から賠償金について補填されるため、実質的には「責任集中原則」と同じ。

4. 責任集中原則の適用範囲

(1)全面適用説
 立法者

(2)国家賠償請求可能説

 (ア)国に対して損害賠償請求をする趣旨
 ①東京電力の資金の問題
ア. 被害は数兆円から数十兆円であるが、原賠法上は1事業所当たり1、200億円を上限とする補償措置が講じられていただけであり、資金的に不足している。
イ. 原賠法§16の「必要な援助」は国の義務として行うものではないし、被害者の損害を全額賠償とはならない可能性は否定できない。

 ②国の姿勢をただす。

 (イ)国家賠償請求を認める理論的構成
(A)国家賠償法当然適用説
原賠法の責任集中原則は、被害者の保護と原子力事業関係者の地位の安定が立法趣旨であり、国まで免責する趣旨は含まれない。
(B)国家賠償法の適用が憲法を介して可能とする見解
(i)憲法17条は、「法律の定めるところにより、国又は地方公共団体に公務員の不法行為について賠償を求めることができる」と規定している。
(ⅱ)憲法17条はプログラム規定又は抽象的権利を定める規定である。
(ⅲ)国家賠償法が制定された後に原賠法がこれを免責する規定をおいたのは、憲法を根拠とする具体的権利となっているので、これを免責する原賠法4条1項は憲法違反である。
(ⅳ)原賠法の「責任集中原則」の目的は、
①被害者のために請求先を特定する
②原子力産業に携わる関連事業者の地位の安定を目的としているので、この2つの目的を超えて被害住民や国民の受ける被侵害利益や侵害の程度は重大である。
原賠法4条は手段としての必要性や合理性に欠けて憲法違反である。

(ウ)国家賠償法の具体的適用
 ①安全指針を策定した原子力安全委員会の委員を「公務員」とする
②規制法では原子炉設置許可は主務大臣としているので、主務大臣を「公務員」とする

(エ)「過失」の構成

・安全指針は、原子炉の設置許可申請等に係る安全審査において、安全性確保の観点から設計の妥当性について判断する際の基礎を目的としている。
指針の意義、解釈をより明確にしておく等の趣旨で「解説」がされた(原子力安全委員会決定「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針ついて[H2.8.30]

・安全指針には短時間の全交流動力電源の喪失に関してしか書かれていないが、解説では「長期間にわたる全交流動力電源喪失は、送電線の復旧又は非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はないとされている。

・福島原発事故では、送電線の鉄塔が倒れて長時間外部電源が途絶え、非常用ディーゼル発電機も津波でほとんど浸水し、炉内の核燃料を冷やせず、炉心溶融を引き起こした。

・福島原発事故の一因は、国の基準の誤りが原因であるといわれるゆえんである。

・専門家の間で電源喪失を引き起こす事態を考慮する必要性が認識された時期。

・東京電力は、H20.6月の時点で福島県沖でのマグニチュード8クラスの地震が発生する可能性があり、その場合の津波の遡上高さは1~4号機で、15.7mとしていることを知っていた。

・米国の電子力規制委員会は20年以上前に福島型を含むいくつかの原子炉について、地震により発電機の破損等の故障が起きて高い確率で冷却機能不全が起こることをレポートで警告していた。

・H18年には、国会質問において、福島第一原子力発電所を含む43基の原子力発電所において、地震により電源喪失状態等が起こりうることが指摘されていた事実がある。

・国の誤った指導(解説)を過失と構成する余地はあり得るのではないか。

5. 責任集中原則に関する判例

水戸地判H20.2.27 判時N0.2003、P67
東海村のJCOの臨界事故に関する損害賠償訴訟に関して、「原子力事業者に該当しない被告住友金属鉱山・・・・・に対して、民法を含むその他いかなる法令によっても、当該損害の賠償をすることはできない」この判例は東京高裁も是認している。

V. 求償権

原賠法§5

損害が第三者の故意により生じたものであるときは、・・・・損害を賠償した原子力事業者はその者に対して求償権を有する。

VI. 損害賠償措置の内容

・原賠法§6では、原子力事業者は、原子力損害を賠償するための措置を講じていなければ、原子炉の運転等をしてはならないと規定している。
原賠法7条は、原子力事業者に対して、原子力損害賠償責任保険契約および原子力損害賠償補償契約の締結もしくは供託を求めている。

・これによって、被害者保護と原子力事業者にとっても偶発的な賠償負担が経常的支出に転化せしめられるとされている。

・損害賠償措置として

①日本原子保険グループの原子力損害賠償責任保険契約がある(法§8)
②政府との原子力損害賠償補償契約(§10)の2種がある。

通常の場合は①が用いられるが、天災の場合、正常な運転による場合、後発害の場合には②が用いられることになっている。
福島原発は天災に起因しているので①には用いられず、②を用いることとされている。

・原賠法7条は、「原子力損害賠償責任保険契約」および「原子力損害賠償補償契約」の締結であって「1工場若しくは1事業所当り」1,200億円又は政令で定める金額を原子力損害の賠償に充てることができるものとして、文部科学大臣の承認を得たものとされている。
現金または有価証券についても規定している。

・福島第一原子力発電所について1,200億円、福島第二原子力発電所について、別の事業として1,200億円の損害賠償措置がなされることになっている。

Ⅶ. 国の措置

1. 賠償措置額を超える原子力損害が発生した場合

・原賠法16条は、原子力損害が賠償措置額(1事務所当り1,200億円)を超えることとなる場合には、政府は原子力事業者に対し、損害賠償をするために必要な援助を行うものとする。

・福島第一原子力発電所の事故が「異状に巨大な天災地変」に該当しない場合には、原賠法16条が適用される。
原賠法7条に基づく1,200億円を超えている東京電力の賠償責任は無限責任を負うのが原則である。

・政府は「この法律の目的を達成するため必要があると認めるとき」に「必要な援助」をする。
「この法律の目的」とは「被害者保護」と「原子力事業の健全な発達に資する」という二つの目的に照らして判断する。

・「政府の援助」とは「国会の議決により政府に属させられた権限の範囲内において行われる(法§16、Ⅱ)」

・「政府の援助」とは「国会の議決により政府に属させられた権限の範囲内において行われる(法§16、Ⅱ)

・「援助」は、具体的に政府の義務とはされていない。

2. 原子力事業者が免責される場合(原賠法17条)

・「異状に巨大な天災地変又は社会的動乱によって原子力損害賠償が発生した場合」には、政府は「被災者の救助および被害の拡大の防止のため必要な措置を講ずるようにする」と規定している(原賠法17条)

・このような場合における被害者は、国家的、社会的被害による被害者というべく、政府はこの法律に関係なく一般の異状災害の場合と同じく救済にあたることは当然であるが、特に念のため明記した。

3. 国による賠償措置の種類

国による賠償措置の種類として、①~④があげられる  ①原子力損害賠償補償契約に基づき、1事業所当たり1,200億円を上限として支払義務あり。
②異状に巨大な天災地変に該当せず、原子力事業者に対して援助を行う(支払義務なし)。
③異状に巨大な天災地変に該当し、原子力事業者の賠償義務が免責される場合に必要な援助を行う(支払義務なし)。
④国家賠償法に基づく国家賠償請求。

Ⅷ. 原子力損害賠償紛争審査会

1. 審査会の役割

・原賠法18条は文部科学省に原子力損害賠償紛争審査会を設置している。
・審査会の業務は、
 ①和解の仲介(被害者と原子力事業者の間の紛争)
②原子力損害の範囲の判定指針の策定。
中間指針等の公表。
・審査会の臨時の機関であるH23.4.11公布された「原子力損害賠償紛争審査会の設置に関する政令」により設置された。

2. 原子力損害賠償紛争解決センター

審査会の内部に、和解仲介をするADR機関として「原子力損害賠償紛争解決センター」が置かれている。

Ⅸ. 原子力損害賠償に関する国際条約

・原子力発電所事故の損害賠償訴訟を発生国で行うことを定める条約として、  ①経済協力開発機構(OECD)の採択した改正パリ条約
②国際原子機関(IAEA)が採択した改正ウィーン条約
③「原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)」があるが、日本は条約に加盟していない。

理由
(ⅰ)日本では事故が起きない「安全神話」
(ⅱ)近隣国の事故について、国内の被害者が他国で裁判を行われなければならないため、裁判を受ける権利への制約がある。
そのため、福島原発事故に関して外国の裁判所に訴え提起がされることがある。  

第2. 原子力損害賠償支援機構法

Ⅰ. 目的、背景

・政府は、福島原発事故の起因となったH23.3.11の地震及び津波は、原賠法3条1項の「異状に巨大な天災地変」に該当しないとの立場をとっている。

・福島原発事故による損害額は、最悪の場合10兆円に上がる可能性があり、原賠法7条に基づく賠償措置額(福島第一、第二原子力発電所を合せて2,400億円)をはるかに超える。

・東京電力の支払い能力には限界がある。

・「原子力損害の賠償に迅速かつ適切な実施」および「電気の安全供給、その他の原子炉に運転等に係る事業の円滑な運営の確保」を図ることを目的として、機構法が制定された。

Ⅱ.原子力損害賠償支援機構

1.組織

(1)設立
機構とは、原子力事業者が原子力損害賠償するために必要な資金の交付等を行うことを目的として設立された。

(2)役員構成等
・役員として理事長1人、4人以内の理事、監事1人
・運営委員会 
8名以内機構の意思決定を行う「東京電力に関する経営、財務調査委員会」の下河辺和彦委員長ら5人が就任する予定。

2. 業務内容

・機構は、原子力事業者から負担金を収納し原子力損害が発生した場合には事業者に対する資金援助を実施し、さらに必要がある時は交付国債を活用した特別資金援助を実施する。

・通常の資金援助は、原子力事業者の相互扶助的支援。

・特別資金援助は、原子力事業者間の積立金では足りず、政府から交付国債の交付を受ける必要がある場合に実施される資金的な支援。

・特別資金援助を受けるにあたっては、原子力事業者は経営合理化あるいは経営責任の明確化を明記した特別事業計画を作成して主務大臣の認定を受けることになっている。

・特別資金援助は、福島原発事故にかかわる援助金であると推定できる。

Ⅲ.支援の仕組み

1. 資金援助の手続

(1)資金援助の申込み
原子力事業者は原賠法3条1項により賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額(1事業所あたり1,200億円)を超えると見込まれる場合には、機構に対して資金援助を申し込むことができる。

(2)機構は、資金援助の申込みがあった時は、運営委員会の議決により、資金援助を行うか否か、資金援助の内容額について決定をしなければならない。
資金援助に係る資金交付のため国債の交付を受ける必要があり、又は必要が見込まれるときは、原子力事業者(東京電力)と共同して、当該原子力事業者による損害賠償の実施、その他の事業の運営および資金援助に関する計画(特別事業計画)を作成して内閣総理大臣および経済産業大臣の認定を受けなければならない。
特別事業計画には、経営の合理化の方策、経営責任の明確化のための方策等について記載しなければならない。

(3)特別事業計画の認定後、機構は特別事業計画に基づく資金援助を実施する。

2. 機構による資金援助の流れ

(1)概説
キャッシュフロー
 ①直ちに損害賠償にあてる資金の流れ政府が機構に交付国債を発行し、機構は現金化して賠償に当てる。
東京電力はこの交付された資金を特別負担金として機構に返済する。
他の原子力事業者が納付する一般負担金も賠償にあてることができる。
②東京電力の設備投資、プラント収束等の電力の安全供給のための資金の流れは、市中の金融機関から機構が政府保証で借入る。

(2)福島原発への損害賠償に用いられる資金の流れ
(ア)一般負担金
各原子力事業者は、機構の業務に要する費用にあてるため、事業年度ごとに負担金を機構に納付しなければならない。
一般負担金年度額は、数千億円程度とも言われている。
一般負担金は、福島原発事故に関する賠償金支払いの支援に使うことができる。
(イ)交付国債
政府は、機構の特別資金援助に係る資金交付のため国債を発行して機構に交付する。
機構は交付国債を現金化し、東京電力に対し、必要な資金を交付する。
(ウ)東京電力による特別負担金の納付
認定事業者(東京電力)は、一般負担金に加え、特別負担金を支払う義務を負う。
特別負担金の支払いは、概ね国債の償還を受けた額の合計額に相当する
額を機構が国庫に納入するまで行われる。
(エ)機構による国庫納付機構は、特別資金援助に係る資金交付を行った場合には、国債の償還がなされるまでの間、毎事業年度に生じた利益は国庫に納付しなければならない。

(3)電力の安定供給の目的に伴う資金の流れ
機構は、内閣総理大臣、文部科学大臣、経済産業大臣の許可を受けて金融機関その他のものから資金の借入れをし、また原子力損害賠償支援機構債を発行することができるとされ、政府は、これらの機構の債務の保証をすることができる。

3. 例外として国による直接の資金交付

政府は特別の場合に、機構に対し、必要な支援をすることができる。

第3. 原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針

Ⅰ. 中間指針の概要

1.原子力損害賠償紛争審査会は、被害者の迅速、公平かつ適正な救済のため、原賠法に基づき、「原子力損害の範囲の判定の指針、その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針(原賠法§18、Ⅱ、No.2)を公表。

①第1次指針

②第2次指針

③中間指針(H23.8.5公表)
原子力損害の当面の全体像を示した

2.概要

損害類型等として①~⑨を示し、それぞれに「(指針)」を設け、「(備考)」で補足説明を行っている。
 ①政府による避難等の指示等に係る損害
②政府による航行危険区域等および飛行禁止区域の設定に係る損害
③政府等による農林水産物等の出荷制限指示等に係る損害
④その他の政府指示等に係る損害
⑤いわゆる風評被害
⑥いわゆる間接被害
⑦放射線被曝による損害
⑧被害者への各種給付金等と損害賠償金との調達
⑨地方公共団体等の財産的損害等

3. 対象とされなかったものについての考え方

中間指針において対象とされなかったものが、直ちに賠償の対象とならないというものではなく個別具体的な事情に応じて認められることがある。特に、政府による避難等の指示に関係なく自主的避難に係る損害の問題点を検討している。

Ⅱ. 各損害項目に共通する考え方

1. 賠償の対象となる損害の範囲

(1)損害の範囲

・原子力事業者が負うべき責任の範囲は、一般の不法行為による損害賠償請求における損害の範囲と同じである。

・本件事故と相当因果関係のある損害について賠償する。

・具体的には政府の指示等に伴う損害、風評被害(市民の合理的な回避行動が介在することで生じた損害)、間接被害ついても一定の範囲で賠償の対象となるとしている。

(2)損害賠償が制限される場合

福島原発事故による損害を回避、減少させることが可能であったにもかかわらず、合理的な理由なく当該措置を怠った場合には損害賠償が制限される場合があり得る(最判H21.1.19、民集63巻1号97号)

2. 津波、地震による損害との区別

福島原発事故による損害が津波、地震による損害かの区別が判然しない場合には、合理的な範囲で特定の損害が「原子の損害」に該当するか否か及びのその損害額を推認することが考えられ、東京電力には合理的且つ柔軟な対応が求められる。

3. 証明の程度の緩和等

・損害の算定にあたっては実費賠償が原則であるが、損害項目によっては合理的に算定した一定の額の賠償を認める方法も考えられる。

・避難による証拠の収集が困難である場合には、証明の程度を緩和することや大量の請求を迅速に処理するため、客観的な総計データ等による合理的な算定方法を用いることも考える。

4.迅速な賠償

被害者の迅速な救済の観点から継続して発生する損害については、一定期間毎に賠償額を特定して支払をしたり、請求額の一部支払いをする等、東京電力には合理的かつ柔軟な対応が求められる。

Ⅲ. 政府による避難等の指示による損害

1. 対象区域

「対象区域」とは、以下の(1)~(6)の区域「地点」である。

(1)避難区域
・政府が原子力災害対策特別措置法(原災法)第15条第2項第1号、第3項に基づいて各地公共団体の長に対して住民の避難を指示した区域であり、  ①福島第一原子力発電所から半径20キロメートル圏内(H23.4.22には「警戒区域」に設定)
②福島第二原子力発電所から半径10キロメートル圏内(H23.4.21には半径8㎞圏内に縮小)

(2)屋内退避区域
・政府が原災法に基づいて各地方公共団体の長に対して住民の屋内退避を指示した区域であり、福島第一原子力発電所から半径20キロメートル以上30キロメートル圏内である。
・「屋内退避区域」については、H23.3.25官房長官より「自主避難の促進等」が発表された。
・「屋内退避区域」はH23.4.22、下記の(3)計画的退避区域および(4)緊急避難準備区域の指定に伴い、その区域指定が解除された。

(3)計画的避難区域
政府が指示した区域で、福島第一原子力発電所から半径20キロメート以遠の周辺地域のうち、事故発生から1年の期間内に積算放射線量が20ミリシーベルトに達するおしれのある区域であり、概ね1ヶ月程度の間に、同区域外に計画的に避難することが求められる区域である。

(4)緊急避難準備区域
政府が緊急時の避難または屋内退避が可能な準備を指示した区域であり、福島第一原発か半径20キロメートル以上30キロメートル圏内の区域から計画的避難区域を除いた区域のうち、常に緊急時に避難のための立退きまたは屋内への避難が可能な準備をすることが求められ、引き続き自主避難をすること及び特に子供、妊婦、要介護者、入院患者等は立ち入らないことが求められる区域である。

(5) 特定避難勧奨地点
計画的避難区域および警戒区域以外の場所であって、地域的な広がりがみられない福島原発事故発生から1年間の積算放射線量が20ミリシーベルトを超えると推定される空間線量率が続いている地点であり、政府が住居単位で設定したうえ、注意喚起、自主避難の支援、促進を行う。

(6) 地方公共団体が住民に一時避難を要請した区域
南相馬市が独自の判断に基づき同市内に住居する住民にたいして一時避難を要請したが、このうち同市内全域から前期(1)~(4)の地域を除いた区域。なお、南相馬市は、H23.3.16市民に対し一時避難を要請し、屋内退避区域の指定が解除されたH23.4.22帰宅を許容する旨の見解を示した。

2. 避難等対象者

「避難等対象者」とは「避難指示等」により「避難等」を余儀なくされた以下の①~③の者である。

・「避難指示」とは、「対象区域」における政府、地方公共団体による避難等の指示、要請または支援、促進をいう。

・「避難等」とは、以下の①~③において定義されている「避難」「対象区域外滞在」および「屋内避難」をあわせたものをいう。
 ①事故発生後に対象区域内から同区域外への避難のための立退き(「避難」という)およびこれに引き続く同区域外滞在(「対象区域外滞在」という)を余儀なくされたもの(但し、H23.6.20以降に緊急時避難準備区域[特定避難勧奨地点を除く]から同区域外に避難を開始した者のうち、子供、妊婦、要介護者、入院患者等以外の者を除く)。
②事故発生時に対象区域外におり、同区域内に生活の本拠として住居があるものの引き続き対象区域外滞在を余儀なくされた者。
③屋内避難区域内で屋内への退避(「屋内退避」という)を余儀なくされた者。

3.損害項目

検査費用(人)
放射線への曝露の有無または健康に及ぼす影響を確認する目的での検査対象者

・避難もしくは屋内退避した者
・対象区域内滞在者

(イ)検査の内容
 ・放射線への曝露の有無
・又はそれらが健康に及ぼす影響を確認する目的での検査

(ウ) 検査のための交通費等の附随費用
 ・交通費
・検査のために休業したことによる現実の収入減の賠償

(エ)宿泊費
病院が遠方にあり宿泊することが必要な場合

(オ)東京電力の補償基準
H23.8.30公表の東京電力の補償基準
健康診断 1回当り 8,000円
放射線検査 1回当り15,000円

(2) 避難費用

(ア)対象者
避難対象者

(イ)交通費
・避難のために支出した交通費
 公共交通機関の運賃
 タクシー料金(必要やむを得ない場合)
 自家用車の場合はガソリン代、高速道路料金、駐車場代
・家財道具の移動費用
 いわゆる引越費用
 業者依頼の場合 ― 実費
 自家用車や知人依頼の場合
 ガソリン代、高速道路料金、駐車場代

(ウ)宿泊代
・ホテル、旅館等に避難した場合
  必要かつ合理的な期間内であれば賠償すべき損害
・アパート等賃貸物件に入居した場合
  手数料、礼金 ― 損害
  帰宅までの賃料 ― 損害
  敷金 ― 損害ではない
・親戚や知人宅に避難した場合
平均的な賃料が損害

(エ)避難等によって生活費が増加した部分
 ・食料購入のための交通費
 ・自家用農作物の利用が困難となった場合の野菜等の購入費用
 ・通勤通学のために交通費等の増加

(オ)損害の終期
「避難指示等の解除から相当期間経過後」である。
この「相当期間」はH23.4.2屋内退避区域の指定が解除された区域等については「H23.7月末を目安とする」。

(カ) 東京電力の補償基準
 ・同一都道府県内の移動は1回あたり1人5,000円
 ・都道府県を越える移動 ― 標準金額
 ・宿泊費用上限 ― 1泊あたり1人8,000円
 ・除染費用 ― 1回あたり5,000円

(3) 一時立入費用

(ア)対象者(当面の生活に必要な物品の持ち出し等)
警戒区域内に住居をしている者であり、現実に一時立入りをした者
(福島第一原発から半径3キロメートル圏内に住居を有している者などを除く)

(イ)交通費、宿泊費
 ・対象区域外滞在地から集合場所に集合し、専用バスで住居地区まで移動する
  集合場所までの交通費
 ・遠方に避難している場合には宿泊費 
 ・家財道具の移動費用
 ・除染費用等

(ウ)東京電力の補償基準
前期(2)(カ)と同じ

(4)帰宅費用

(ア)対象者
避難等対象者で、避難指示等の解除に伴い対象区域内の住居に最終的に戻った者

(イ)交通費、家財道具の移動費用、宿泊費等

(ウ)東京電力の補償基準
前記(2)(カ)と同じ

(5)生命、身体的損害
避難等対象者が福島原発事故により避難等を余儀なくされたため、生命、身体的損害を蒙った場合の損害についての指針

(ア)相当因果関係
「避難等を余儀なくされたこと」と「生命、身体的損害」の間には相当因果関係が必要である。

(イ)賠償の範囲
 ・診断費、治療費、薬代などの実費
 ・逸失利益、精神的損害

(ウ)東京電力の補償基準
 ・医療費 ― 実費賠償
 ・既往復の悪化防費用 ― 1人あたり10万円を超える部分は50%を支払う
 ・1回累計10万円以上の請求は医師の診断書を提出する

(6)精神的損害
避難等対象者が受けた精神的苦痛(「生命、身体的損害」を伴わないものに限る)対象者

①対象区域から実際に避難した上、引続き同区域外滞在を長期間余儀なくされた者及び本件事故発生時には対象区域外に居り、同区域内に住居があるものの引き続き対象区域外滞在を長期間余儀なくされた者。
②屋内避難区域の指定が解除されるまでの間(H23.4.22)同区域における屋内退避を余儀なくされた者。 

損害の範囲
精神的苦痛」と「避難費用」のうち生活費の増加費用も合算したものである。

(ウ)損害額
・(ア)対象者①については  (ⅰ)第1期(事故発生から6ヶ月間)1人月額10万円を目安とする
 但し避難所等において避難生活した期間は1人月額12万円
(ⅱ)第2期(第1期終了から6ヶ月間)1人月額5万円を目安とする
(ⅲ)第3期(第2期終了から終期までの期間)あらためて検討する

(ア)対象者②について
1人10万円を目安とする
但し、緊急時避難準備区域からH23.6.19迄に避難を開始した者及び計画的避難区域から避難した者を除く

(エ)始期
H23.3.11
但し、緊急時避難準備区域内に住居がある子供、妊婦、要介護者、入院患者等であって、同年6月20日以降に避難した者及び特定避難勧奨地点から避難した者については、当該者が実際に避難した日を始期とする。

(オ)終期
避難指示等の解除等から相当期間経過後

(7)営業損害
対象区域内での事業の全部または一部を営んでいた者又は現に営んでいる者において、避難指示等に伴い営業が不能になる又は取引が減少する等により損害が発生した場合対象者対象区域内での事業の全部または一部を営んでいた者損害額逸失利益の他、「事業に支障が生じたために負担した追加的費用や事業への支障を避けるため又は事業を変更したために生じた追加的費用」

(A)逸失利益
・福島原発事故がなければ得られたであろう収益と実際に得られた収益との差額から、福島原発事故がなければ負担していたであろう費用と実費が負担した費用との差額を控除した額
・通称「粗利」である
・立証方法
  過去3年分程度の損益計算書の売上総利益の1日分を計算する等の方法
・警戒区域で立入が禁止されている場合、何年分の逸失利益が請求できるか
・中間指針あり
 事業拠点の移転や転業等の可能性があるが、賠償請求できる期間には一定の限度がある。

(B)従業員に係る追加的な経費
解雇予告手当、災害見舞金

(C)商品や営業資産の廃棄費用
・商品や営業資産の取得原価
・廃棄に係る費用
・除染により使用可能ならば「除染費用」

(D)事業拠点の移転費用
・引越費用 
・不動産業者に対する仲介手数料
・但し、土地購入費用、建物建築費用は認められない
 財物的価値の喪失減少に対する補償で補填される

(ウ)東京電力の賠償基準
・東京電力がH23.9.21発表「法人および個人事業者の方に関する主な損害項目における賠償基準の概要」
・避難指示等に伴う減収分(逸失利益)+ 追加費用 逸失利益=(粗利+売上原価中の固定費-経費中の変動費-給料賃金・地代家賃)×減収率
 但し、給料賃金、地代家賃を支出してれば実費を払う

(8)就労不能等に伴う損害
対象区域内に住民又は勤務先がある勤労者が、避難指示等により、あるいは営業損害を被った事業者に雇用されていた勤労者が当該事業者の営業損害により、その就労が不能となった場合の損害。

(ア)対象者
対象区域内に住居又は勤務先がある就労者
自営業者、家庭内農業従事者 ― 「営業損害」
本件事故と相当因果関係ある解雇、その他離職も含まれる

(イ)給与等の減収分、追加的費用
追加的費用
転居費用
通勤費の増加費用

(ウ)就労不能機関の終期
従前と同じ又は同等の就労活動を営むことが可能となった日
どの時期までを賠償の対象とするかについては見通すことが困難な為、改めて検討

(エ)損害の範囲
現実に転職をするまでの全期間
全期間分は賠償の対象となるが、ケースバイケース
2~5年分程度

(オ)東京電力の補償基準
 ・就労不能等による給与等の減収分
 ・(従前の平均収入―現実の実収入)+追加的費用(転居費用等)

(9)検査費用
対象区域内にあった商品を含む財物につき、検査を実施して安全を確認するための費用

(ア)対象
対象区域内にあった商品を含む財物

(イ)東京電力の補償基準
原則1回あたり17,000円
原則として1回分を対象とする

(10)財物価値の喪失又は減少等
対象区域内の財物が避難等を余儀なくされて管理が不能等となったため、又は放射性物質に曝露したことにより、財物の価値の全部又は一部が失われたこと等による損害

(ア)対象
 対象区域内に存する財物
 ・動産、不動産
 ・動植物、食料品等

(イ)損害の範囲
①避難等に伴い、財物の管理が不能等になったため、当該財物の価値が全部又は一部が失われた場合
②対象区域内にある財物の価値を喪失またはが減少される程度の量の放射性物質に曝露した場合
③②には該当しない者の、財物の種類、性質及び取引態様等から、平均的、一般的な人の認識を基準として、財物の価値の全部又は一部が失われると認められる場合
④損害として
 (ⅰ)財物の価値の喪失又は減少分
 (ⅱ)廃棄費用、修理費用等の追加費用
除染が必要であれば除染費用が追加費用となる

(ウ)損害の基準となる財物の価値
・事故発生時の財物の時価
・時価の算出が困難な場合は、公正妥当と認められる企業会計の慣行

(エ)不動産の取扱い
・中間指針は、具体的取扱いについて何ら記載されていない
・土地 ― 鑑定
・建物 ― 鑑定
調査不能であれば、取得価格から経年劣化を考慮して計算する

( オ)東京電力の補償基準
具体的な算定方法は示されていない

Ⅸ. 政府による航行危険区域等及び飛行禁止区域の設定に係る損害

1. 対象区域

(1)政府よりH23.3.15航行危険区域に設定された。東京電力第一原発を中心とする半径30kmの円内地域(内海域のうち半径20kmに円内海域は同年4.22に「警戒区域」にも設定され、その後同月25日には、同海域全体につき航行危険区域が解除されるとともに、「警戒区域」以外の半径20kmから30kmの円内海域は「緊急時非難準備区域」に設定され、これらの設定の変更前後における各円内海域を併せて「航行危険区域」という。

(2)政府によりH23.3.15に飛行禁止区域に設定された。東京電力福島第一原発を中心とする半径30kmの円内空域(同年5月31日には半径20kmの円内空域に減少)。

2. 営業損害

(1)航行危険区域等の設定による
 ①漁業者の減収、費用の増加
②内航海運業者、旅客事業者の減収、費用の増加

(2)飛行禁止区域の設定の伴い
航空運送業者の迂回による費用の増加

3. 就労不能に伴う損害

航行危険区域等又は飛行禁止区域での操業、航行又は飛行が不能等となった漁業者、内航海運業者、旅客船事業者、航空運送事業者等の経営状態が悪化したため、そこで勤務していた勤労者が就労不能等となった場合の損害。

4. 東京電力の賠償基準
ある

V. 政府等による農林水産物等の出荷制限指示等に係る損害

1.対象
出荷制限指示等に伴う損害を対象とする。
出荷制限指示とは、以下①、②を対象とする

①農林水産物(加工品を含む)または食品の生産、製造および流通に関する制限についての指示等
(例)
ⓐ政府による出荷制限指示、作付制限指示、食品衛生法に基づく販売禁止等
ⓑ地方公共団体による出荷または操業自粛要請等
ⓒ生産者団体が政府または地方公共団体の関与の下で行う操業自粛決定
 等

②農林水産物、食品に関する検査についての指示等

2. 損害項目

(1)営業損害

(ア)対象者
①農林漁業者、その他対象事業者において、当該指示等に伴い、事業に支障が生じたために現実に減収があった場合の減収分
②対象事業者において、事業に支障が生じたため負担した負担追加的費用(商品の回収費用、廃棄費用等)や事業への支障を避けるため又は事業を変更したために生じた追加費用(代替飼料の購入費用等)
③指示等の対象品目を既に仕入れ又は加工した加工、流通業者において販売の断念を余儀なくされる等、事業に支障が生じたために現実の生じた減収処分
④指示等の解除後も、対象事業者又は加工、流通事業者において、事業に支障が生じたために減収があった場合には、合理的範囲で損害と認められる指示解除後に事業再開のための追加的費用も認められる

(イ)損害の算定
①減収分などを想定している
②出荷制限指示には「作付け制限」による減収分も含まれる
③農産物をすべて廃棄した場合には、廃棄費用も追加費用として認められる
④指示等の解除後も減収があった場合には、合理的範囲で損害と認められる
⑤減収分の算定方法等については、前記Ⅲ、3、(7)営業損害(イ)損害額と同様である

(ウ)東京電力の賠償基準
あり

(2)就労不能等に伴う損害

(ア)対象者
出荷制限指示等の対象業者および対象の品目の加工、流通業者における就労者である

(イ)減収分、追加的費用
給与等の減収分及び追加費用(転居費用、通勤費の増加分)が損害と認められる

(ウ)因果関係の立証
出荷制限指示等と「経営状態の悪化」による就労不能の因果関係の立証が必要

(エ)損害の終期
対象者が従来と同じ又は同等の就労活動を営むことが可能となった日。 
但し転職等の対応の可能性があるため、一定の限度がある。

(3)検査費用(物)
指示等の基づき行われた検査の検査費用は損害となる

(ア)対象者
対象業者及び対象品目の加工業者および流通業者

(イ)損害の範囲
 ・検査費用
 ・検査のための運送費等の付随費用

Ⅵ. その他の政府指示等に係る損害

1. 対象

 ・前述以外の事業活動に関する制限又は検査について、政府が福島原発事故に関して行う指示等に伴う損害
(例)水に係る摂取制限指導、水に係る放射能性物質検査の指導放射性物質が検出された上下水処理等副次産物の取扱いに関する指導及び学校等の校舎、校庭等の利用判断に関する指導等
・製造業、サービス業、医療業や学校教育、その他事業一般にかかわる損害

2. 損害項目

(1)営業損害
・指示等の対象事業者において、指示等に伴い、事業に支障が生じたため、現実に減収が生じた場合には、減収分が損害となる。
・事業に支障が生じたために負担した追加的費用(商品回収費用、保管費用等)や事業への支障を避けるため又は事業を変更したため生じた追加的費用(代替水の提供費用、除染費用、校庭、園庭における放射線量の低減費用等)も損害と認められる。
・指示等の解除後、減収があった場合には損害と認められる
解除後に事業再開のための追加費用も損害と認められる

(ア)対象者
「その他の政府指示等」の対象事業者
 消費者 ― 対象外
(イ)損害の範囲、算定方法
 ・自主的制限も合理的理由があれば認められる
 ・政府または地方公共団体による調査結果に基づく、校庭、園庭における土壌に関して児童、生徒等の受ける放射線量を低減するための措置については政府が措置費用の一部を支援する場合には、学校等の設置者が負担した追加的費用は必要かつ合理的な範囲で損害と認められる
 ・減収分の算定方法等は避難指示等に伴う減収、算定方法と同じ
(ウ)東京電力の賠償基準
 あり

(2)就労不能等にともなく損害

 (ア)対象者
「その他政府指示等」の対象事業者における勤労者
(イ)給与等の減収分及び追加的費用
 賠償の対象となる損害項目
(ウ)因果関係の立証
避難指示等と「経営状態悪化」の因果関係の立証が必要
(エ)損害の終期
対象者が従来と同じ又は同等の就労活動を営むことが可能となった日
但し、一定の限度がある

(3)検査費用

 (ア)対象者
「その他の政府指示等」の対象事業者
(イ)損害項目
 ・検査費用
 ・検査のための運送費等の付随費用が含まれる

Ⅻ. いわゆる風評被害

1. 一般的基準

(1)意義
 ①「風評被害」とは、報道等により広く知らされた事実によって、商品又はサービスに関する放射性物質による汚染の危険性を懸念した消費者又は取引先により当該商品またはサービスの買い控え、取引停止等をされたために生じた被害を意味するものと定義をしている。
②「風評被害」は、「必ずしも科学的に明確でない放射性物質による汚染の危険を回避するための市場の拒絶反応」であり、このような回避行動が平均的、一般的な人を基準として合理的といえる場合には、これによる損害は福島原発事故と相当因果関係ある原子力損害とする。
③この指針内容の策定にあたっては、名古屋高裁金沢支部判決H元5.17、判時No1322、P99が参考にされている。
敦賀湾にある日本原子力発電㈱の原子力発電所からの放射能漏れ事故により湾内が汚染され魚貝類が売れなくなった事案。
④「風評被害」には農林水産物は食品に限らず、動産、不動産といった商品一般、あるいは無形のサービス(観光業など)に係るものにも含まれる。

(2)相当因果関係の判断枠組み  ①相当因果関係が認められる蓋然性が高い類型を列挙し、これに該当する場合には、原則として相当因果関係が推認される。
②上記①類型に該当しない「風評被害」については、一般的基準に基づく相当因果関係の立証により、賠償の対象となる。

(3)福島原発事故に加えて他原因の影響が認められる場合このような場合には、福島原発事故との相当因果関係のある範囲で賠償すべき。

(4)東京電力の賠償基準
 ・観光業の風評被害における福島原発事故以外の要因による売上減少率を20%(但し、H23.3月から8月まで)
・サービス業等の風評被害における福島原発事故以外の要因による売上減少率を3%(但し、H23.3月から8月)と設定している

(5)損害の終期
現時点においては、事故が収束していないこと等から、一律に示すことは困難であるとしている。

(6)損害項目
 ・営業損害
・就労不能等に伴う損害
・物に係る検査費用
・上記3項目以外の損害(商品価値の減少)もありうる

2. 農林漁業、食品産業の風評被害

(1)対象

(ア)農林漁業

・食用農林産物、茶、食用畜産物、食用飼料水産物、花き、その他の農林水産物、牛肉、食用に供される牛およびこれらの農林水産物を主な原材料(当  該農林水産物の割合が概ね50%以上を目安とする)とする加工品については特定の県において本件事故以降に現実に生じた買い換え等による被害については原則として賠償すべき損害と認める。

・各品目類ごとに産地が特定されているが、原則的産地(食用農産物)は福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、埼玉県となっている。「その他の農林水産物」は福島県のみである。牛肉については北海道から島根県まで17県に及ぶ。

(イ)農林水産物の加工業及び食品製造業
以下①か~③の産品に係る損害が対象となる。

①(ア)に記載した農林水産物を主な原材料とするもの

②加工または製造した事業者の主たる事務所又は工場が福島県に所在するもの

③摂取制限措置(乳幼児向けを含む)中の水を原料として使用する食品

(ウ)農林水産物(加工品を含む)及び食品の流通業
前途の(ア)(イ)①~③の産品等を継続的に取り扱っていた事業者が仕入れた当該産品等に係る損害を対象とする。

(エ)自主的な出荷、操業等の断念
上記(ア)~(ウ)に記載した「風評被害」に係る損害を回避又は軽減するための自主的な出荷、操業等の断念についても、当該判断がやむを得ないものと認められる場合には、原則として損害の対象となる。

(オ)検査費用
損害の対象となる検査費用には、取引先の要求等によって政府が本件事故に関し検査の指示等を作った都道府県において、当該指示等の対象となった産品等と同種のものに係るものは、原則として賠償の対象となる。

(カ)その他
指針に該当しない「風評被害」についても福島原発事故と相当因果関係が認められれば賠償の対象となる。

(2)東京電力の賠償基準
・農業における風評被害
前年取引高合計×価格下落率
価格下落率は被害対象県の平均価格変動とその他の全国の平均価格変動率の差により求める

 ・農林水産業の加工業、食品製造業、流通業における風評被害売上高減少額×貢献利益率
貢献利益立は【(粗利益+売上原価中の固定費-経費中の変動費)/売上高】

3. 観光業の風評被害

(1)観光業
いわゆる「観光業」とは、ホテル、旅館、旅行業等の宿泊関連産業、レジャー施設、観光船等の観光産業、バス、タクシー等の交通産業、文化、社会教育施設、観光地での飲食業、小売業等を指す。

(2)賠償の範囲
・原則として「風評被害」に係る損害として賠償の対象になる
 ①福島県、茨城県、栃木県、群馬県の観光業者の営業被害(減収分と追加的費用)と観光業者の勤労者の就労不能等に伴う損害
②外国人観光客に関する国内の観光業者における福島原発事故前の予約について、H23.5月末までの通常の予約率を上回る解約により発生した減収分を追加的費用
・相当因果関係が認められる場合
個別具体的な事情に鑑み、福島原発事故との相当因果関係が認められる場合には賠償の対象となりうる・観光業の減収等については東日本大震災自体による影響の有無、程度の検討も必要である

(3)東京電力の賠償基準
観光業者の風評被害による減収分
・【基準となる売上高×貢献利率×(売上減収率―福島原発事故以外の要因による売上減収率)】
福島原発事故以外の要因による売上減収率については20%但し、H23.3月から8月について
・外国人観光客の予約解除による減収分について算定方法もある

(4)仮払法による措置
平成23年原子力事故による被害に係る緊急措置に関する法律(いわゆる「仮払法」)に基づき、福島県、茨城県、栃木県又は群馬県の区域内営業所または事務所において、観光業を行う中小企業者については、以下の方法により算定した損害額の10分の5の額が仮払金として国(原子力損害賠償支援機構)より支払われた。

損害の概算額=減収総額の概算―原子力事故以外の原因による減収額
減収総額の概算
A×(M÷12)×【1-B÷{C×(M÷2)}】
原子力事故以外の原因による減収額
A×(M÷12)×1÷5
A:基準事業年度(平成20年以降の事業年度のうち請求者が選択したもの)の売上総利益額
B:請求対象期間内における売上高の額
C:基準事業年度の売上高の額
M:請求対象期間の月数

4.製造業、サービス業等の風評被害

(1)対象者
Ⅰ. 製造業、サービス業等において以下に揚げる損害については、原則として本件事故との相当因果関係が認められる
 ①福島県に所在する拠点で製造、販売を行う物品または提供するサービス等に関し、当該拠点において発生したもの
②サービス等を提供する事業者が来訪を拒否することによって発生した福島県に所在する拠点における当該サービス等に係るもの
③放射性物質が検出された上下水処理等福次産物の取扱いに関する政府による指導等につき

(ⅰ)指導を受けた対象業者が、当該福次等物の引き取りを忌避されたこととうによって発生したもの

(ⅱ)当該福次産物を原材料として製品を製造していた事業者の当該製品に係るもの

 ④水の放射性物質検査の指導を行っている都県において、事業者が本件事故以降の取引先の請求等によって実施を余儀なくされた検査に係るもの

Ⅱ. 海外に在住する外国人が来訪して提供する又は提供を受けるサービス等に関しては、我国に存在する拠点において発生した被害のうち、本件事故前に既に契約がなされた場合であって、少なくとも平成23年5月末までに解約が行われたことにより発生した減収分及び追加費用については、原則として本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(2)東日本大震災による影響
損害の有無の認定及び損害額の算定に当たっては検討が必要

(3)東京電力の賠償基準
・製造業における風評被害による減収分
「基準となる売上高×貢献利益率×売上減少率」
・サービス業等の風評被害による減収処分
「基準となる売上高×貢献利益率×(売上減少率-福島原発事故以外の要因による売上減少率)」
・サービス等を提供する事業者から来訪を拒否されたことによる損害
「売上の減少額―費用の減少額―(違約金等の受取額―違約金等の支払額)」

5. 輸出に係る風評被害

(1)対象
①輸出品ならびにその輸送に用いられる船舶及びコンテナ等について輸出先国の要求によって生じた検査費用、各種証明書発行費用等は損害と認める
②輸入拒否がされた時点において輸出され、または生産、製造されたものに限り、輸入拒否によって現実に廃棄、転売又は生産、製造の断念を余儀なくされたために生じた減収分及び追加費用も損害とみとめる

(2)東京電力の賠償基準
輸出品に係る減収分
「予定売上高-転売価格等(廃棄の場合は0として計算する)― 費用の減少額」

Ⅷ. いわゆる間接被害

1. 指針の内容

(1)「間接被害」の定義
「間接被害」とは、本件事故前により前記3ないし第7で賠償の対象と認められる損害(政府による避難等の指示等に係る損害、政府等による農林水産物等の出荷制限指示に係る損害。いわゆる風評被害等、以下「第一次被害」という)が生じたことにより、第一次被害を受けた者(以下「第一次被害者」という)と一定の経済的関係にあった第三者に生じた被害を意味する。

(2)本件事故と相当因果関係のある損害
間接被害者に事業等の性格上、第一次、被害者との取引に代替性がない場合、具体的な類型として①~③が挙げられる  ①事業の性質上、販売先が地域的に限られている事業者の被害であって、販売先である第一次被害者の避難、事業休止等に伴って必然的に生じたもの
②事業の性質上、調達先が地域的に限られている事業者の被害であって、調達先である第一次被害者の避難、事業休止等に伴って必然的に生じたもの
③原材料やサービスの性質上、その調達先が限られている事業者の被害であって、調達先である第一次被害者の避難、事業休止等に伴って必然的に生じたもの

(3)上記(2)①~③類型以外にも、個別に検証して間接被害者の事業等の性質上、第一次被害者との取引に代替性がない場合には本件事故との相当因果関係が認められる
(例)第一次被害者との取引が法令により義務付けられている間接被害者について一時被害者との取引に伴って必然的に生じた被害

(4)損害項目
①営業損害
第一次被害が生じたために間接被害者において生じた減収分及び追加的費用
②就労不能等に伴う損害 ①の営業損害により、事業者である間接被害者の経営が悪化したため、そこで勤務していた勤労者が就労不能等による給与等の減収分及び追加的費用

2. 間接被害の裁判例
東京地判H22.9.29 判時No.2095、P55
間接被害は、特別損害として、予見可能性がないとして請求が認められない

3. 東京電力の賠償基準
「営業損害」
「間接被害による減収分(逸失利益)+追加的費用」
間接被害による減収分(逸失利益)=「売上減収額-費用減収額」

Ⅸ. 放射線被曝による損害

1. 指針の内容 
本件事故の復旧作業等に従事した原子力発電所作業員、自衛官、消防隊員、警察官、又は住民、その他のものが本件事故にかかる放射線被曝による急性または晩発性の放射線障害により傷害を負い、治療を要する程度の健康状態が悪化し疾病にかかり、あるいは死亡したことによる逸失利益、治療費、薬代、精神的損害等は賠償すべき損害

2. 損害の範囲と算定
(1)「生命、身体的損害を伴う精神的損害」の額はせ「生命、身体の損害の程度等に従って、個別に算定される
(2)晩発性の放射線傷害も賠償すべき損害である

3. 東京電力の賠償基準
明確化しておらず個別的に対応

X. 被害者への各種給付金等と損害賠償金との調整

1. 損益相殺の法理

2. 損害額から控除すべきと考えられるもの

(1)損益相殺の法理により控除すべきもの
①労働者災害補償保険法 厚生年金保険法に基づく各種保険給付国民年金法に基づく各種長期給付②国家公務員災害補償法及び地方公務員災害補償法に基づく各種補償金国家公務員共済組合法および地方公務員等、共済組合法に基づく各種長期給付逸失利益から控除

(2)損益相殺の対象とならないが、損害額から控除すべきもの
①地方公共団体から被害者に支払われる宿泊費または家賃の補助避難費用から控除 ②賃金の支払いに確保等に関する法律に基づき立替え払いされた未払賃金就労不能等に伴う損害から控除
③損害保険料
財産価値の喪失又は減少等から控除

3. 損害額から控除すべきでないもの
①生命保険
②労働者災害補償保険法に基づく附帯事業として支給される特別支給金
③国民年金法に基づく死亡一時金
④雇用保険法に基づく失業等給付
⑤災害弔慰金の支給等に関する法律に基づく災害弔慰金及び災害見舞金
⑥各種義捐金

4. 農畜産業振興機構による支援金の取扱い
農家に対し、1頭あたり5万円を支援
損益相殺の対象となる

XI. 地方公共団体の財産的損害等

1. 損害の範囲
(1)地方公共団体等が所有する財物の価値の喪失又は減少等に関する損害および地方公共団体等が民間事業者と同様の立場で行う事業に関する損害については、私企業と同様、中間指針による
(2)地方公共団体等の税収の減少については、特段の事情がある場合を除き賠償すべきとは認められない

2. 東京電力の賠償基準
「本件事故」の収束状況等を踏まえて改めてご案内する

3. 法律の措置
「平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」に基づく地方公共団体等の廃棄物の処理や除染等の措置等は東京電力の負担に下に実施する旨定めている

第4. 原子力損害賠償の請求手続

Ⅰ. 各手続の概観

①東京電力に対する直接交渉(「東京電力による本賠償」)

②平成23年原子力事故による被害に係る緊急措置に関する法律(「仮払法」)に基づく仮払金請求

③原子力損害賠償紛争解決センターにおける和解の仲介手続

④弁護士会におけるADR 手続

⑤訴訟、調停手続

Ⅱ. 東京電力に対する直接交渉

1. 東京電力の定める賠償基準

(1)中間指針による賠償基準を策定して賠償する

(2)中間指針に示されていない損害項目について
①中間指針及び東京電力の賠償基準等を踏まえて賠償協議に応じる
②合意に至らない場合は、別途原紛センター、訴訟手続による

2. 受付窓口

・東京電力本店
福島原子力補償相談窓口(コールセンター)0120-926-404
「補償運営センター」
賠償による書類の受付、確認、支払事務

・東北補償相談センター
仙台市内に設置

Ⅲ.「平成23年原子力事故による被害に係る緊急措置に関する法律」に基づく原子力

損害賠償支援機構による仮払い

1. 平成23年原子力事故による被害に係る緊急措置に関する法律

(1)目的
①国による仮払金の支払い
②原子力被害応急対策基金を設ける地方公共団体に対する補助に関し必要な事項を定める

(2)国による仮払金の支払い
・国による仮払金の支払いは、原子力損害賠償支援機構に委任する
 ①東京電力に対する資金交付等
 ②当該資金を調達
 ③賠償相談窓口設置
・原子力損害賠償支援機構
 ①原子力事業者の委任を受けて損害賠償の全部又は一部の支払い
 ②仮払法に基づき
主務大臣又は都道府県知事の委任を受けて、当該仮払金の支払いに関する事務の一部を行う

(3)仮払施行法
①仮払金対象損害が限定
②仮払金額の簡易な算定方法も定められる

2. 具体的な請求手続

(1)請求の対象となる地域
福島県
茨城県
栃木県
群馬県

(2)請求の対象となる業種
上記(1)地域内に営業所又は事業所において本業として以下の観光業を営んでいる者
 ①旅館業法(旅館業法§2、Ⅰ)
 ②道路運送法3条1号ロに規定する一般貸切旅客自動車運送業
 ③旅行業(旅行業法§2、Ⅰ)
 ④主として観光客を対象とする小売業
 ⑤主として観光業を対象とする外食産業

(3)請求対象期間
H23.3.11~同年8.31

(4)留意点
ご確認事項の内容に同意する必要がある

(5)請求書の提出先
霞ヶ関3-2-2
特定原子力損害に係る仮払金請求書受付窓口

(6)仮払金額の算定方法
法§4、Ⅰ
施行令§2、Ⅱ、Ⅲ
施行規則§4

3. その他

(1)国による仮払金の支払いと本賠償との関係
・国は、仮払金を支払ったときは、その額の限度において特定原子力損害の賠償請求権と取得する(法§10)
・仮払を受けた者が賠償の額が確定した場合に、その金額が仮払金の額に満たないときは、その差額を返還する義務がある(法§10)

Ⅳ. 原子力損害賠償紛争解決センター

(原紛センター)によるADR手続

1. 原紛センターの概要

・文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会の下に設置された公的な裁判外紛争解決機関である
・原子力損害の賠償に関する紛争について和解の仲介及び原子力損害の調査及び評価を行う

2. 対象となる紛争

・原子力発電所の事故により損害を蒙った被害者の損害賠償に限定されている
・差し止め等は対象とならない

3. 原紛センターの紛争解決手続

(1)和解の仲介手続
(2)申立書の提出
(3)開催場所
・東京事務所
・福島事務所(郡山市)
(4)審理、終結
・書面審理が原則
・和解等の呈示
・和解契約成立
(5)原紛センターの紛争解決手続の特徴
中間指針を基準とする
(6)原紛センターを利用するメリット
①手続の円滑
②早期解決
 3ヶ月程度をめどに和解による解決
 東京電力との交渉前置ではない
③安価
④秘密性
 仲介委員には守秘義務あり
⑤仲介委員による中間指針を基準に中立、公正に運用される

Ⅴ. 訴訟手続

一般手続による

第5. 各分野における原子力損害

原子力損害賠償紛争委員会の「専門委員調査報告書」が参考となる

Ⅰ. 農林漁業

1. 総論

農林漁業分野において生じた損害の類型
①政府による避難指示等に係る損害
②政府等による出荷制限指示等に係る損害
③政府による航行危険区域等の設定に係る損害
④風評被害

2. 政府による避難指示等に係る損害

中間指針

「第3.政府による避難等の指示等に係る損害について」により

①営業損害 ― (ア)減収分  (イ)追加費用 (ウ)避難指示等の解除後の減収および追加費用

②検査費用

③財物価値の喪失又は減少等がある

3. 政府等による出荷制限指示等に係る損害

中間指針

「第5.政府等による農林水産物等の出荷制限指示等に係る損害について」により

①(出荷制限指示等に係る)営業損害
(ア)減収分
(イ)追加的費用
商品の回収費用
廃棄費用等
(エ)出荷制限指示等の解除後の減収および追加的費用
②(出荷制限指示等に係る)検査費用

4. 政府による航行危険区域等の設定に係る損害

中間指針

「第4.政府による航行危険区域等及び飛行禁止区域の設定に係る損害について」による

①営業損害
(ア)減収分
(イ)追加的費用

5. 風評被害

中間指針
「第7.いわゆる風評被害について」
「2.農林漁業、食品産業の風評被害」による

ア.風評被害を懸念して自ら作付を断念したことによる損害
イ.取引先の要求等による検査にかかった検査費用
エ.その他

中間指針に記述された類型に当らなくても個別的に検討をして相当因果関係にあるものは賠償対象となる

Ⅱ. 建設業

1. 特色

建設業には他の業種には無い特性がある

①業務期間が長期

②安全確保の要請から、技術者や建築士等のための固定費用がある

2. 政府による避難等の対象区域に係る損害関係

(1)逸失利益

(ア)警戒区域等の制限区域内における受注の途絶または減少
(ⅰ)警戒区域内
新規受注皆無
(ⅱ)計画的避難区域および緊急時避難準備区域
新築住宅の需要がほとんどない
過去数年間の平均的売上高が基準となる
(イ)事故発生時に契約済み取引の解除等
(ⅰ)未解約の場合
(a)履行可能の場合
未収工事代金そのものを損害と考えることは出来ない
(b)事故収束の見通しが全く立たない場合
工事の完成債務は履行不能となる
危険負担の問題
請負業者の工事代金請求権も消滅するのが原則
逸失利益として工事代金を東京電力に請求できる
(ⅱ)解約の場合
注文者による契約解除(民§641)
注文者は賠償義務があるので、東京電力に請求できない
(ウ)在置した資機材等を使用できないことによる受注機会の喪失
警戒区域外の業務を発注することができなければ、売上相当額は賠償の対象となる

(2) 追加的負担費用

(ア)警戒区域等からの避難、移転費用
(例)警戒区域外に仮事務所設置

(イ)営業に要する交通費

(ウ)工事の延期に伴う追加的費用
請負人は工事についての追加費用を負担する義務があるため、損害として東京電力に請求できる

(エ)政府による避難指示等の対象区域内における作業忌避
上積み分の工事費用も請負業者負担となるのが原則であるため、東京電力に損害請求できる

(オ)従業員の退職を回避し、継続雇用するための追加的費用
建設事業者の特性からして事業者が負担せざるを得ないため、損害賠償の対象となる

(3)財産価値の喪失、減少関係

(ア)警戒区域に在置せざるを得なかった重機や資材等
重機等の毀損の修理代、除染費用、使用不能による現在価値の賠償等

(イ)建築中の住宅など
出来形について所有権侵害による損害賠償請求

3. 政府指示等の対象区域外に係る損害関係

(いわゆる風評被害)

(1)対象区域に隣接する市域で育成している造園用樹木
風評被害として取り扱う

(2)除染した資材等の忌避
売買契約を了している場合には、逸失利益として代金相当額について損害と認める