電子記録債権法(2011年6月現在)

第1 立法に至る経緯

・事業者の資金調達の手法として、下記の問題がある

①指名債権の譲渡
債権存在の確認のコスト
二重譲渡のリスク
人的抗弁のリスク

②手形
盗難、紛失のリスク
券面の作成、保管、運搬のコスト

そのためe-Japan戦略Ⅱ(平成15年7月2日)以降
IT戦略本部決定の中で
電子的な手段による債権譲渡を推進する施策の検討を進めた

・平成17年12月

法務省、金融庁、経済産業省
「電子債権に関する基本的な考え方」
電子債権制度の創設に当たっての基本的視点
電子債権法制の骨格が明らかとなる

・平成18年2月8日

法制審議会第148回会議
電子債権法制の整備についての諮問
電子債権法部会(部会長、安永正昭、神戸大学教授)

・平成18年7月

「電子登録債権法制に関する中間試案」決定、パブリックコメント

・平成19年2月7日 法制審議会第152回会議

「電子登録債権法制の私法的側面に関する要綱」採択

・平成18年12月21日

金融庁、金融審議会第2部会、情報技術革新と金融制度に関するワーキンググループ合同会合
「電子登録債権(仮称)の制定に向けて
~電子登録債権の管理機関のある方を中心として~」
取りまとめ

・平成19年3月14日

上記二つの審議会の審議結果を踏まえて、立法作業を経て、電子記録債
権法案を第166回国会に提出

・平成19年6月20日  法律成立

・平成19年6月27日  交付

第2. 制度の概要

Ⅰ. 電子記録債権の定義

① 電子記録債権とは、「その発生又は譲渡について、この法律の規定による電子記録を要件とする金銭債権」である(§2、Ⅰ)

(ア)通常の電子記録債権(§15)
(イ)電子記録保証債務履行請求権(§31)
(ウ)特別求償権(§35)
   電子記録保証人が出捐をして支払等記録を受けることによって発生する

② 発生について電子記録効力要件としている

債権の内容

・「発生について電子記録を効力要件とする」
「手形の振出が手形用紙への記載が要件とする」に相当する
債権の内容が電子記録によって定まる(§9、Ⅰ)

・譲渡について電子記録を効力要件とする」
「手形債権の譲渡について券面への裏書が要件」に相当する
譲渡記録をしなければ譲渡の効力を生じない(§17)
債権の二重譲渡を生じないようにする
債権譲渡のコストとリスクを軽減する

・善意取得、人的抗弁の切断あり

・手形保証と同様独立性を有する電子記録保証(§2、Ⅳ)

・電子記録債権は、「ペーパーレスの手形」とも言える

・手形要件とは異なり
分割払いの約定、利息、遅延損害金、期限の利益喪失になども任意記載事項あり(§16、Ⅱ)

Ⅱ.電子記録等の意義

電子記録は、電子債権記録機関(§2、Ⅱ)が調整する電磁的な帳簿

(記録媒体)である記録原簿(§2、Ⅲ)に記録事項(§2、Ⅴ)を記録することによって行われる(§3)
不動産登記において、登記官が登記簿に登記をして登記記録を作成するに似た取扱いである。

(cf)電子債権記録機関 → 登記官
電子原簿 → 不動産登記簿
電子記録 → 個々の登記
債権記録 → 各土地、建物

Ⅲ.電子記録債権の法的特徴

①電子記録債権は、その発生の原因となっている売掛債権や貸金債権とは別個の債権である
手形債権が売掛債権、貸金債権と別個の債権に同じ
原因債権の存否や瑕疵の有無にかかわらず債権として成立する

②電子記録債権は、電子記録をすることによって発生等の要件とする
債権であるから、手形債権や指名債権等の既存の債権とは異なる種類にの新たに創設された債権である

③ 電子記録債権は、事業者の資金調達の円滑化等に資するため創設された

Ⅳ.私法上の規律の概要

①電子記録債権の発生等の要件
電子記録は、原則として、当事者双方の請求がなければすることができない(§5、Ⅰ)

・電子記録の請求の方式は、各電子債権記録機関が業務規定において、電子的方式に限るのか、書面の提出方式もみとめるのか共同の請求を要求するか定める(§56)

・共同請求を要求せず当事者が別々に請求した場合には、すべての者が電子記録の請求をした時に電子記録の請求の効力が発生する(§5、Ⅲ)

・電子記録債権の発生や譲渡の効力発生要件としての当事者の意思表示は、当事者双方の電子記録の請求の意思表示のみで足り、それ以外に発生や譲渡についての当事者間の合意ないし契約が成立することは要件ではない

・§12、Ⅰ、§13の「電子記録の請求における相手方に対する意思表示」という用語には、電子債権記録機関に対する意思表示と相手方に対する意思表示も含まれていると考えていることを示している

・電子記録は、電子記録債権の発生と譲渡の効力要件であるだけでなく、混合による電子記録債権の消滅(§22、Ⅰ、但書)
意思表示による電子記録債権の内容の変更(§26)
質権の設定(§36、Ⅰ)等においても効力要件
信託の第三者対抗要件でもある(§48、Ⅰ)

②取引の安全確保の枠組み

(ⅰ)電子記録債権の権利内容は債権記録の記録内容によって定まり(§9、Ⅰ)、債権記録の名義人は電子記録債権にかかる権利者であると推定され(§9、Ⅰ、Ⅱ)、電子記録債権の内容及び帰属が債権記録によって明らかになる

(ⅱ)心裡留保、または錯誤により意思表示が無効となる場合の第三者や、詐欺または強迫により意思表示が取り消された後の第三者については、当該第三者が善意、無重大過失でなければ保護される(§12、Ⅰ)

(ⅲ)無権代理人が電子記録の請求をした場合には、相手方に重大な過失がない限り無権代理人の免責は認めない

(ⅳ)電子債権記録機関が不実の電子記録をしたり、無権代理人等の請求に基づく電子記録をしたことによって損害を生じた場合において、電子債権記録機関は無過失を証明しない限り、損害賠償責任を免れない(§11、14)

(ⅴ)電子記録債権の譲渡について、手形の裏書による譲渡と同様に、善意取得の規定(§19)と人的抗弁の切断の規定(§20)を設けている

(ⅵ)債務者が債権記録に電子記録債権の債権者または質権者として記録されている者に支払いをした場合には、悪意またな重大な過失がない限り支払免責の規定を設けている(§21)

(ⅶ)手形保証と同様の独立性を有する電子記録保証(§2、Ⅳ)の制度を用意し(§33、Ⅰ)、主たる債務者として記録されている者がその主たる債務を負担しない場合であっても、電子記録保証人は、電子記録保証債務を負担する
電子記録保証人が弁済等をした場合の求償権について、裏書人の再遡及権と類似の内容のものとして、特別求償権がある(§35)

③その他の主な規律

(ⅰ)シンジケート・ローンのような複雑な内容の金銭債権の流動化にも活用できるように、任意的に記録して債権の内容とすることができる

(ⅱ)質権の制度(§36~§42)信託への活用も可能(§48)

(ⅲ)電子記録債権の分割の制度(§43~§47)がある

(ⅳ)記録事項等の開示については、原則として債権記録に記録されている者だけが、自己の権利義務の確認に必要な範囲でのみ開示を受け得ることとしつつ、機関投資家や格付機関にも開示したいとの要望等に応えて、電子債権記録機関による開示の範囲の拡張を関係者の同意を要件としつつ許容している(§87)

Ⅴ.電子債権記録機関

① 電子債権記録機関とは、電子債権記録業を行う者として、主務大臣の指定を受けた株式会社である(§2、Ⅱ、§51、Ⅰ、§56)

② 電子債権記録機関の指定等

(ⅰ)電子債権記録機関の指定は、申請が必要である(§52)

(ⅱ)電子債権記録業を適正かつ確実に遂行することができると認められるものであることが指定の要件とされている(§51、Ⅰ)

(ⅲ)資本金額及び純資産額は5億円以上の政令で定める額(§53)

(ⅳ)役職員には秘密保持義務が刑罰付きで課される(§55、§96)

③ 電子債権記録機関の業務

(ⅰ)専業の期間(§57)

(ⅱ)但し、電子債権記録業の一部を主務大臣の承認を受けて、銀行等その他の者に委託することができる(§58、Ⅰ)

④ 口座間送金決済等

電子債権記録機関は、電子記録債権の当事者が口座間送金決済等による支払方法を選択した場合には、当該送金等のよる支払に関与した銀行等から通知を受けることによって職権で支払等記録をしなければならない(§59、§62~66)

⑤ 監督

一定事項については、主務大臣の許可を受けなければ効力を生じない(§69~71、§78~82)

報告徴求、立入検査、業務改善命令、指定の取消、業務移転命令等(§73、74、75、76)等の権限がある

第3. 電子記録債権についての私法上の規律

1. 通則

(1)電子記録

① 電子記録の請求
・発生記録、譲渡記録、変更記録等の全ての電子記録は、原則として当事者の請求に基づいて行われる(§4、Ⅰ)
・電子記録の請求は、原則として電子記録権利者(§2、Ⅶ)および電子記録義務者(§2、Ⅷ)の双方がしなければならない(§5、Ⅰ)
・電子記録権利者(§2、Ⅶ)とは、電子記録をすることにより、電子記録上、直接に利益を受ける者、不動産登記における登記権利者に類する
・電子記録義務者(§2、Ⅷ)とは、電子記録をすることにより、電子記録上、直接に不利益を受ける者をいい、不動産登記における登記義務者に類する者である
・当事者による電子記録の請求について (ⅰ)電子記録権利者と電子記録義務者が共同して請求しなければならないか、別々に請求することを認めるかどうか (ⅱ)請求の方式として電子的な方式によることに限るのか、書面やFAX等による請求を認めるかどうか等については、電子債権記録機関が業務規程で定めるところに従う(§56、Ⅰ) ・当事者請求の例外 ― 強制執行等の電子記録(§49、Ⅰ)

② 電子債権記録機関による電子記録
・電子債権記録機関は、法令や業務規程に従った適式な請求を受けたときは、遅滞なく電子記録をしなければならない(§7)
・電子債権記録機関は、業務規程に定めるところにより、保証記録、質権設定記録、分割記録を禁止し、又はこれらの電子記録および譲渡記録の回数等を制限することができる。但し、譲渡記録を全面的に禁止したり、支払等記録や変更記録を禁止または制限することはできない(§7、Ⅱ本文)
・電子債権記録機関が業務規程で上記の定めをしたときは、発生記録において当該定めを職権で記録することができる(§16、ⅡNo.15)が、この記録をすることを怠ったときは、何人もその禁止または制限の効力を主張することができない(§7、Ⅱ、後段)
・電子債権記録機関は、同一の電子記録債権に関して2つ以上の電子記録の請求があったときは、請求の順序に従って電子記録をしなければならず(§8、Ⅰ)、これらの請求が同時になされていて、かつ、相互に矛盾するときは、いずれの電子記録もしてはならない(§8、Ⅱ)

③ 電子記録の効力
・電子記録債権の内容は、債権記録の記録によって定まる(§9、Ⅰ)
・電子債権記録上、債権者として記録されている者は、真実の債権者である蓋然性が高いことから、債権記録の記録には権利推定効が認められ、電子記録名義人は、電子記録債権の債権者と推定される(§9、Ⅱ)

④ 電子記録の訂正等
・電子債権記録機関は、下記の場合には、職権で電子記録の訂正をしなければならない(§10、Ⅰ) (ⅰ)電子記録の内容が請求の内容と客観的に異なっている場合 (ⅱ)請求がなされていないにもかかわらず、電子記録がされている場合 (ⅲ)電子債権記録機関が自ら権限により記録すべき記録事項(例、電子記録の年月日等)について、誤った内容の記録がされている場合 (ⅳ)(ⅲ)の記録事項について、その記録がされていない場合(ある電子記録の全体がされていない場合を除く) ・保存期間が経過していないにもかかわらず、電子記録が消去された場合には、職権で当該電子記録の回復をしなければならない(§10、Ⅱ)
・訂正や回復について電子記録上の利実関係を有する第三者がある場合には、その訂正または回復によって当該者の権利内容に影響を及ぼすことから、その承諾を要する(§10、Ⅰ但書、Ⅱ後段)
・電子記録の訂正または回復をしたときは、その内容を当該訂正または回復をした電子記録の電子記録権者および電子記録義務者に通知しなければならない(§10、Ⅳ)
・電子記録の訂正または回復をするまでの間に新たに別の電子記録がされてしまっており、その内容が訂正または回復後の電子記録の内容と矛盾する場合には、訂正または回復に伴い、矛盾する新たな電子記録をも職権で訂正しなければならない(§10、Ⅲ)

⑤ 不実の電子記録等についての電子債権記録機関の責任
電子債権記録機関は、不実の電子債権記録がなされたことによって、当該請求をした者、その他第三者が損害を受けた場合には、当該電子債権記録機関の代表者、使用人、その他の従業員のいずれにも過失がなかったことを証明しない限り、損害賠償責任を免れない(§11)

(2)電子記録債権に係る意思表示等

① 意思表示の無効等の特則
・電子記録債権の取引の安全を確保するために、民法上第三者保護規定が設けられていない心裡留保または錯誤による無効の場合の第三者や、詐欺又は強迫による取消後の第三者について、善意、無重過失を要件として保護することとしている(§12、Ⅰ)
・この第三者保護規定は、個人業者である旨の記録をしていない個人である場合には適用されない(§12、Ⅱ)

② 取引の安全を確保するための規定が適用されない場合
・支払期日以後にされた譲渡、質権設定については、意思表示の無効、取消の場合の第三者保護(§12、Ⅱ、№1)、善意取得(§19、Ⅱ、№2)、人的抗弁の切断(§20、Ⅱ、№2)の規定は適用されない。手形の期限後裏書の取扱い(手形法§20、Ⅰ)と同様である
・個人事業者である旨の記録がされていない個人である場合には、第三者保護規定は適用されない
・真実は消費者であるのみ、個人事業者である旨の記録がされも、その効力を有しない(§16、Ⅳ、§18、Ⅲ、§32、Ⅳ)

③ 代理
電子記録の請求にも民法の代理に関する規定が適用される。民法117条の特則を設けて、電子記録の請求をした者が代理権を有しないことを相手方が知っているか、重大な過失によって知らなかった場合に限って無権代理人を免責することにしている(§13)

④ 無権限者の請求による電子記録についての電子債権記録機関の責任
無権代理人または他人になりすました者の請求に基づき電子記録を行った電子債権記録機関は、その代表者、使用人、その他の従業員のいずれにも過失がなかったことを証明しない限り、これによる損害を受けた者に対する損害賠償責任を免れない(§14)

2. 発生

(1)発生の要件

電子記録債権(保証人に対する保証債務履行請求権と特別求償権以外の通常の電子記録債権)は、発生記録をすることによって生ずる(§15)

電子記録債権の債権者と債務者の双方が、電子債権記録機関に対して発生記録の請求を行い(§5、Ⅰ)、電子債権記録機関が記録原簿に発生記録を行うことで(§7、Ⅰ)電子記録債権が発生する

債権の存在および内容を記録原簿に記録事項によって決まる

電子記録保証人に対する保証債務履行請求権は、保証記録に記録する(§31)

特別求償権も発生されるためには支払等記録が必要(§35、Ⅰ)。

(2)発生記録の記載事項

①必要的記録事項(§16、Ⅲ)
必要的記録事項は、金銭債権として成立するために不可欠な事項 であることから、発生記録において債権記録の番号と発生記録の年月日以外の必要的記録事項のいずれがかが欠けているときは、電子記録債権は発生しない(§16、Ⅲ)。 (ⅰ)債務者が一定の金額を支払う旨(№1)
「一定の金額」 ― 確定金額に限られる
「支払約束文句」を記録する
(ⅱ)支払期日(№2)
確定期日であること
分割払いの場合には、各支払期日を記録事項としている
(ⅲ)債権者の指名、または名称、および住所(№3) (ⅳ)債権者が2人以上ある場合には(№4)
不可欠債権であるときはその旨
可分債権である時は債権者ごと債権の金額
(ⅴ)債務者の指名、または名称、及び住所(№5) (ⅵ)債務者が2人以上ある場合において(№6)
その債権が不可欠債務または連帯債務であるときはその旨
可分債務であるときは債務者ごとの債務の金額
(ⅶ)記録番号(№7)
各発生記録ごとに1つの債権記録を作成し、各電子記録債権を区別する
(ⅷ)電子記録の年月日(№8)

② 任意的記録事項(§16、Ⅱ)
任意的記録事項については、§16、Ⅱ、№1、№2、№9に揚げる事項を除いては、各電子債権記録機関は、業務規程でその記録する範囲を限定することができる(§16、Ⅴ)

(ⅰ)支払方法についての定め(№1~№3)
口座間送金決済や64条に規定する契約に基づく払込みは、電子債権記録機関の職権によって支払等記録がされるため、ほとんどの当事者がこれらを利用するものと予想される。 ㋐ 口座間送金決済に関する契約(§62、Ⅰ) ㋑ ㋐の契約の外、債務者または債権者及び銀行等と電子記録債権に係る債務の債権者口座に対する、払込みによる支払に関する契約による支払方法 ㋒ ㋐、㋑以外の支払方法

(ⅱ)
① 利息、遅延損害金または違約金の定め(№4)
② 期限の利益の喪失についての定め(№5)
③ 相殺または代物弁済についての定め(№6)
④ 弁済の充当の指定についての定め(№7)
⑤ 債権者と債務者との間の通知の方法についての定め(№13) ⑥ 債権者と債務者との間の紛争の解決の方法についての定め(№14)

(ⅲ)債権者又は債務者が個人事業者である旨(№9)
電子記録債権の当事者が個人である場合には、個人事業者である旨の記録が認められ、その旨の記録がされていない場合には、取引の安全の保護のための諸規定が適用されない

(ⅳ)善意取得又は人的抗弁の切断の規定を適用しない旨の定め(№8、№10)
手形においても指図禁止手形により、同様の制度がある(手形法§11、Ⅱ)

(ⅴ)債務者が債権者に対抗することができる抗弁についての定め(№11)一定事由については、債務者が対抗することが出来るようにしたいとのニーズ

(ⅵ)譲渡記録等の禁止または制限についての定め(№12)。
(例)譲渡禁止特約を記録する場合

(ⅶ)業務規程による記録の制限(№15)
電子債権記録機関も業務規程に基づき、保証記録、質権設定記録、もしくは分割記録の禁止、またはこれらの電子記録、もしくは譲渡記録の制限をしている場合には、これを記録事項としている

(ⅷ)電子記録債権の内容となるものとして政令で定める事項№16)
将来的に政令で記録事項を増やす余地を残している。

(3)原因債権への影響

・電子記録債権は、原因債権とは別個の債権であるから、原因債権の支払手段として電子記録債権を発生させる原因であっても当然には原因債権は消滅しない

・原因債権が消滅するかどうかについて、当事者の意思が不明である場合には、現実に支払がなければ債権者の金銭的満足は得られないことから、電子記録債権が発生しても原因債権は消滅しない

・原因債権と電子記録債権が併存する場合には、いずれを先に行使すべきかについても、当事者の意思によって定まるものと解されるが、当事者の意思が不明である場合には、口座間送金決済に関する契約に係る支払による旨の記録(§16、Ⅱ、№1)がなされているときは、通常は、電子記録債権を先に行使すべきとする意思であると解される

・原因債権と電子記録債権が併存し、かつ、原因債権を行使することが許容される場合において、債権者が原因債権を行使するときは、二重払いの危険が生じることから、債務者は、債務者が支払等記録の請求をすることについて、債権者が承諾するのと引換えに支払う旨の抗弁(§25、Ⅲ)を主張することが出来ると解される

・原因債権のみが第三者に譲渡された場合 (ⅰ)原因債権の譲渡についての債務者対抗要件の取得の前に電子記録債権についての発生記録がされた場合には、債務者が異議をとどめない承諾をしない限り、電子記録債権を発生をさせたことが「通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由」(民§468、Ⅱ、動産債権譲渡特例法§4、Ⅲ)に該当し、電子記録債権を先に行使されるべき事由や支払等記録の請求について、電子記録債権の債権者が承諾するのと引換えに支払う旨の抗弁を主張できる (ⅱ)原因債権の譲渡についての債務者対抗要件の取得の後に、電子記録債権についての発生記録がされた場合には、電子記録債権を発生させたことは、「通知を受けた後に生じた事由」となり、電子記録債権については、抗弁として主張し得ず、二重払いのリスクを負う

3.譲渡

(1)譲渡の要件

・電子記録債権の譲渡は、譲渡記録が効力要件となる(§17)

・電子記録債権の債権者(譲渡人)と譲受人となる者の双方が電子債権記録機関に対して譲渡記録の請求を行い、これを受けた電子債権記録機関が記録原簿に譲渡記録を行うことで(§7、Ⅰ)電子記録債権が譲渡される

・債権の内容の確認コストが軽減され、二重譲渡のリスクも防止できる

・発生記録において譲渡記録の禁止または制限の記録がされている場合(§16、Ⅱ、№12、№15)には、その記録の内容に抵触する譲渡記録をすることは出来ない

(2) 譲渡記録の記載事項

① 必要的記録事項(§18、Ⅰ、各号)

(ⅰ)電子記録債権を譲渡する旨(№1)

(ⅱ)譲渡人が電子記録義務者の相続人であるときは、譲渡人の氏名、住所債権者の相続人が相続を原因とする変更記録を経ずに第三者に譲渡する場合には、債権記録上の債権者は、個人事業者であるのに実際の譲渡人は消費者であることがあり得る。そのため相続の場合には譲渡人を記録事項としている

(ⅳ)電子記録の年月日(№4)

② 任意的記録記録事項(§18、Ⅱ、各号)

(ⅰ)譲渡人の支払先口座(№1) ・譲渡に伴って、払込先の口座も譲受人の口座へと変更しようとするのが通常であるため。

(ⅱ)譲渡人が個人事業であるときは、その旨(№2)

(ⅲ)譲渡人と渦離受人との間の通知方法についての定め、および紛争の解決の方法について定め(№3、№4)

(ⅳ)政令の定める事項(№5)

(3)善意取得(§19)

① 原則(§19、Ⅰ)
・譲渡記録の請求により電子記録債権の譲受人として記録された者は、悪意又は重大な過失がない限り当該電子記録債権を取得する
・電子記録名義人は電子記録債権を適法に有すると推定される(§9、Ⅱ)ことから、電子記録債権に関する取引の安全を保護するため、手形と同様の善意取得制度を設けた

② 例外(§19、Ⅱ)
次の場合には、善意取得の規定の適用はない (ⅰ)発生記録に善意取得の規定を適用しない旨が記録されている場合(№1)。手形において指図禁止手形の振出が認められていると同様 (ⅱ)譲受人が、支払期日以後にされた譲渡記録の請求によって譲受人として記録されたものである場合(№2)
・債権の流通期間を経過しているため
・手形の期限後裏書と同様の扱い
(ⅲ)消費者と個人事業者である旨の記録をしていない個人事業者を譲渡人としてされた譲渡記録の請求における譲渡人の意思表示が効力を有しない場合(№3)
消費者保護のため

(4)人的抗弁の切断

①原則(§20、Ⅰ)
・電子記録債務者は、電子記録債権の債権者に害意がない限り、当該債権者に当該電子記録債権を譲渡したも者に対する人的関係に基づく抗弁をもって当該債権者に対抗することが出来ない
・取引の安全のため、手形におけると同様認められた
・「害意」の解釈については、手形法17条但書についての解釈と同様に解する。

② 例外(§20、Ⅱ)
(ⅰ)発生記録に人的抗弁の切断の規定を適用しない旨が記録されている場合(No.1)
(ⅱ)譲受人が支払期日以後にされた譲渡記録の請求によって譲受人として記録されたものである場合(N0.2)
(ⅲ)電子記録債務者が、消費者と個人事業者である旨の記録をしていない個人事業者である場合(N0.3)

4.消滅

(1)電子記録債権の消滅

① 消滅の要件
・電子記録債権は、支払や相殺がされれば、債権が消滅した旨の記録をしなくても消滅する
・電子記録債権法は、電子記録債権の支払期日における支払の方法について特段の規定を設けていないため、民法§484、商§516によって規律される

② 支払免責による消滅(§21)
・電子記録名義人に対してした電子記録債権についてに支払いは、当該電子記録名義人がその支払いを受ける権利を有しない場合であっても、支払をした者に悪意または重大な過失がない限りは、その効力を有する
・電子記録名義人は、電子記録債権を適法に有すると推定されるため、取引の安全を保護するため、手形と同様(手形法§40、Ⅲ)の制度を設けた

③ 混同による消滅§22) ・電子記録債権については、電子記録債務者が電子記録債権を取得しても、電子記録債権は消滅しない
・決済の循環を生じさせない為の特例(№2) (ⅰ)発生記録における債務者は、電子記録債権を取得しても電子記録保証人に対する債権の行使をすることは出来ない (ⅱ)電子記録保証人は、電子記録債権を取得しても、当該電子記録保証人に対して特別求償権を行使することができる関係にある他の電子記録保証人に対する債権の行使はすることはできない。 ・混同を原因とする支払等消記録すれば、混同によって電子記録債権は消滅する(§22、Ⅰ、但書)。

④ 時効による消滅(§23)
3年に時効期間

(2)支払等記録

① 支払等記録の機能
支払等記録は原則として電子記録債権の消滅の効力要件とはならない (ⅰ)債務消滅原因事実を記録する機能
支払済の抗弁を第三者も対抗できる
(ⅱ)法定代位を公示する機能 cf. §24、№5 (ⅲ)特別求償権を発生させる機能(§35) (ⅳ)質権についての権利関係を公示する機能

② 支払等記録の記録事項(§24) (ⅰ)消滅し、または消滅することとなる債務を特定するために必要な事項(№1 ) (ⅱ)支払等をした金額、その他の当該支払等の内容(№2)
(例) 支払であるか、相殺であるか 支払金額、その内元本の額
(ⅲ)支払等があった日(№3) (ⅳ)支払等をした者(№4) (ⅴ)支払等をした者が当該支払等をするについて正当な利益を有するものであるときは、その事由(№5)
・法定代位や特別求償権が発生したことを明らかにするため
(ⅵ)電子記録の年月日(№6) (ⅶ)政令で定める事項(№7)
将来的に政令で記録事項を増やす余地を残している

③ 支払等記録の請求権者(§25)
・債権者やその一般承継人等の電子記録義務者については、単独請求を認めている(§25、Ⅰ、№1、2)事実性が担保することができる
・電子記録債務者や支払等をした者やそれらの一般承継人は、電子記録義務者の全員の承諾を得れば、支払等記録の請求をすることができる(Ⅰ、№3)
・支払等があった場合には、支払等をした者や電子記録債務者が電子記録義務者に対して支払等記録の請求についての承諾を請求することができる(Ⅱ)
・これから支払をする者も、電子記録義務者に対して支払をするのと引換えに当該承諾を請求することができる(Ⅲ)支払はほとんどの場合口座間送金決済による契約又は64条に規定する契約に従った払込によりされ、職権で支払等記録がされると予想される

5. 記録事項の変更

(1)変更の要件

・電子記録債権の内容を意思表示によって変更する場合には、変更記録を効力要件としている(§26)

・電子記録債権を目的とする質権の内容を当事者の意思表示によって変更しようとするときは、変更記録が効力要件である

・相続等によって電子記録債権の債権者や債務者に変更が生じた場合には、変更記録は効力要件ではない

(2)変更記録の記録事項(§27)

① どの記録事項について(No1)

② どのような原因で(No.2)

③ どのように(No.3)

④ いつ(No.4)

⑤ 記録事項の全部又は一部を削除する場合には、「当該記録事項を削除する旨」記録する(No13、括弧書)

⑥ 具体的な記録方法は業務規程に委ねられる(§59)

(3)求償権の譲渡に件い電子記録債権が移転した場合の変更記録(§28)
電子記録債権の債務者を主たる債務者として民法上の保証をしていた者が当該債務者に代わって弁済をすれば、債務者に対する民法上の求償権を取得する(民§459、462)とともに法定代位により当該電子記録債権をも取得する(民§500)が、求償権が第三者に譲渡されれば、担保の附従性により当該電子記録債権も求償権の譲受人に法律上当然に移転する。この場合における電子記録債権の移転の事実を債権記録にも移転させるために、「支払等をした者」(§24、N0.4)についての記録事項を当該求償権の譲受人名義に変更する旨の変更記録をする(§28)

(4)変更記録の請求(§29)

① 原則
当該変更記録についての電子記録上の利害関係を有する者全員が変更記録の請求をしなければならない(§29、I)

② 例外 ・相続、合併の一般承継については、当該一般承継人だけで変更記録の請求をすることができる(§29、Ⅱ、本文)
相続人全員による変更記録の請求が必要(§29、Ⅱ、但書)
・氏名、名称、または住所の変更は、変更の生じたものが単独で変更記録の請求をすることができる(§29、Ⅳ、前段) ・他の者の権利義務に影響を及ぼさないことが明らかな変更記録であって、予め業務規程(§59)で定められたものについては、単独で請求できる(§29、Ⅳ、後段) ・他の者の権利義務に影響を及ぼさないことが明らかな変更記録であって、予め業務規程(§59)で定められたものについては、単独で請求できる(§29、Ⅳ、後段)

(5)変更記録が無効な場合における電子記録債務者の責任(§30)

・錯誤等により無効、詐欺等により取消、無権代理、ハッキング等の不正な手段によって債権記録の内容が改ざんされた場合の電子記録債務者の責任

・手形が変造された場合(手形法§69)同様の取扱い
① 無効な変更記録前の電子記録債務者の責任 ・当該変更前の債権記録の内容に従って債務を負担する(§30、I、本文) ・請求の意思表示を適法にした者の間においては、当該意思表示をした電子記録債務者は、変更後の債権記録の内容に従って債務を負担する(同項但書) ② 無効な変更記録後の電子記録債務者の責任
当該変更記録の後に債務を負担した電子記録債務者については、変更後の債権記録の内容に従って債務を負う(§30、Ⅱ)

6.電子記録保証

手形の裏書人と同様に譲渡人に債務者の支払いを担保するため

(1)電子記録保証とは
「電子記録保証」とは、電子記録債権にかかる債務を主たる債務とする保証であって、保証記録をしたものをいう(§2、Ⅸ)
発生記録における債務者の債務他の電子記録保証債務
主債務とする特別求償債権に係る債務

(2)保証記録
① 必要的記録事項(§32、Ⅱ)
次の(ⅰ)から(iv)までの事項のいずれかが欠けているときは電子記録保証債務履行請求権は発生しない (ⅰ)保証をする旨(No.1) (ⅱ)保証人の氏名または名称および住所(No.2) (ⅲ)主たる債務者の氏名等の主たる債務を特定するために必要な事項(No.3) (ⅳ)電子記録の年月日(No.4)

② 任意的記録事項(N0.32、Ⅱ)
(ⅰ)保証の範囲を限定する旨の定め(N0.1)
一部保証等の場合
(ⅱ)遅延損害金または違約金(N0.2) (ⅲ)
ⓐ 相殺または代物弁済についての定め(N0.3)
ⓑ 弁済の充当の指定についての定め(N0.4)
ⓒ 債権者と保証人との間の通知の方法についての定め
ⓓ 債権者と保証人との間の紛争解決の方法についての定め(N0.9)
(ⅳ)電子記録保証人が個人事業者であるときはその旨(N0.5)
電子記録保証の独立性の規定の適否(§33、Ⅱ)を債権
記録によって明確にするため
(V)人的抗弁の切断の規定を適用しない旨の定め(N0.6)
手形における裏書禁止裏書(手形法§15、Ⅱ)と同様の規定
(ⅵ)保証人が債権者に対抗することができる抗弁についての定め(No.7)
一定の事由について債務者が対抗できるというニーズのため
(ⅶ)政令で定める事項(No.10)

(3)電子記録保証の独立性

・電子記録保証は主たる債務者として記録されている者がその債務を負担しない場合においても、その効力を妨げられない(§33、Ⅰ)

・手形保証(手形法§32、Ⅱ)と同様、取引安全のための制度

・主たる債務が発生記録または保証記録の必要的記録事項の記録が欠けていることにより、主たる債務が無効である場合は電子記録保証も無効である

・電子記録保証人が個人事業者である旨の記録がされていない個人である場合には適用ない(§33、Ⅱ)

(4)民法の適用除外(電子記録保証の内容)

・民法の保証に関する規定のうち以下の規定は適用されない(§34、Ⅰ)

・催告、検索の抗弁(民§452、453)

・分別の利益(民§456)

・主たる債務者について生じた時効中断の効果(民§457、Ⅰ)

・主たる債務者の債権による相殺(民§457、Ⅱ)

・連帯保証(民§458、商§511、Ⅱ)

・個人事業者である旨の記録がなされていない個人が電子記録保証人である場合には、主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができる(§34、Ⅱ)

(5)特別求償権

① 電子記録保証人が支払った場合の求償権については、特別求償権についての規定を設けている(§35) ・電子記録保証は独立性を有しているため、裏書人の再遡求に類似のものとした

② 特別求債権が発生するための要件 (ⅰ)電子記録保証人が出えんすること (ⅱ)支払等記録がなされること

③ 特別求償権の範囲
民法§459、462、463、465の規定の適用を除外している (ⅰ)主たる債務が発生記録によって生じた債務である場合
・出捐により共同の免責を得た額
・遅延損害金  求償できる(No.1)
・避けることができなかった費用
・出損をした電子記録保証人が電子記録保証人となる前に自分を債権者として電子記録保証をしていた他の電子記録保証人に対しては、主たる債務者に対するのと同額を求償することができる(N0.2)
・2号に掲げる者及び自らが電子記録保証人となる前に出損をした者の電子記録保証にかかる債権者であった者を除く他の電子記録保証人に対しては、自己の負担部分を越えて出損した額のうち、当該請求を受ける者の負担部分の額について求償することができる(N0.3)
(ⅱ)主たる債務が特別求償権である場合に、当該電子記録保証人が出損をしたときの特別求償権の範囲については(ⅰ)と同様である(§35、Ⅱ) (ⅲ)主たる債務が電子記録保証債務である場合には、主たる債務および主たる債務である電子記録保証債務を主たる債務とする他の電子記録保証人に対する特別求償権の範囲は(ⅰ)と同様である
・主たる債務者として記録されている電子記録保証人が出損をしたとすれば特別求償権を行使することができた者に対しても特別求償権を直接行使することができる(§35、Ⅲ)

7.質権

(1)電子記録債権の質入れ

・電子記録債権を目的とする質権の設定においては、質権設定記録をすることがその効力要件である(§36、Ⅰ)

・質権設定は質権設定者と質権者の双方が電子債権記録機関に対し質権設定記録の請求を行い、質権設定記録をすることによって電子記録債権を目的とする質権が発生する

・電子記録債権法36条2項は、質権の総則、動産質および不動産質の規定を準用しない

・電子記録債権法36条2項は民法の質権や抵当権に関する規定を個別に準用している

・電子記録債権を目的とする質権は
① 被担保債権となる利息等の範囲につき最後の2年分に限定されない(民§346)
② 流質は禁止される(民§346)。但し、商行為により可能(商§515)
③ 転質(民§348)や質権の順位の変更(民§374)をすることはできるが、質権またはその順位の譲渡または放棄をすることはできない
④ 共同抵当に関する規定(民§392、398の16以下)は準用していない

(2)質権設定記録

① 必要的記録事項(§37、I) (ⅰ)質権(根質権)を設定する旨(I、№Ⅰ、Ⅲ、NO.1) (ⅱ)質権者(根質権者)の氏名等(I、N0.2、Ⅲ、N0.2) (ⅲ)被担保債権の額、債務者の氏名等の被担保債権を特定するために必要な事項(I、No.3、Ⅲ、№3)
いわゆる包括根質権は認められない
(ⅳ)質権番号(I、No.4、Ⅲ、No.4)
質権に関する電子記録が記録された順序を示す番号をいい、質権の順位を示す番号ではない
(ⅴ)電子記録の年月日(I、No.5、Ⅲ、No.6)

② 任意的記録事項(§37、Ⅱ) (ⅰ)被担保債権の利息等の定め(No.1) (ⅱ)被担保債権の条件(No.2) (ⅲ)被担保債権の範囲についての別段の定め(№.3) (ⅳ)質権の実行方法についての定め(№.4) (ⅴ)質権者の預貯金口座(№.5) (vi)
ⓐ 質権設定者と質権者との間に通知の方法についての定め(No.6)
Ⓑ 質権の設定者と質権者との間の紛争解決方法についての定め(No.7)
(ⅶ)政令で定める事項(No.8)

(3)質権設定記録の効力

・質権設定記録は質権設定の効力要件となる(§36、Ⅰ)

・質権の順位は質権設定記録の前後によって定まる(§36、Ⅲ民 §373)

・質権者として記録されている者は適法に質権を有する者と推定される

・質権設定記録には譲渡記録と同様に善意取得や人的抗弁の切断の効力が認められる(§38、§19、§20)

(4)質権の順位の変更、転質、質権の移転

① 質権の順位を変更するには、質権の順位の変更の電子記録をすることが効力要件となる(§36、Ⅲ、民§374、Ⅱ)
・質権の順位の変更の電子記録の記録事項は (ⅰ)質権の順位を変更する旨 (ⅱ)順位を変更する質権の質権番号 (ⅲ)変更後の質権の順位 (ⅳ)電子記録の年月日 ・質権の順位の変更の電子記録の請求は、順位を変更する質権の電子記録名義人の全員がしなければならない(§39、Ⅱ)

② 転質

 ・転質の電子記録をすることが効力要件となる(§40、Ⅰ)
・転質の電子記録の記録事項として (ⅰ)質権設定記録の記録事項 (ⅱ)転質の目的である質権を特定するため質権番号を記録する

③ 質権の被担保債権が譲渡された場合 ・随伴既により当該質権も当然に移転するため、質権者の氏名等の変更記録を行う(§27) ・被担保債権の一部が譲渡された場合には、質権は準共有となるため変更記録には債権の一部譲渡を受けた者の氏名の追加の外に一部譲渡された譲渡額も記録する ・根質権は元本確定後にされたものであることが要件であるとともに、元本確定の事実が電子記録された後であることが要件(§41、Ⅱ)

(5)元本の確定の電子記録

・根質権の元本が確定した場合には、元本の確定の電子記録をすることができる

・元本の確定の電子記録の記録事項は(§42、Ⅰ) ① 元本が確定した旨 ② 元本が確定した根質権の質権番号 ③ 元本確定の年月日 ④ 電子記録の年月日

・元本確定の請求は原則として根質権設定者と根質権者として記録されている者の双方が請求する

・しかし、以下の場合には根質権の電子記録名義人のみ請求できる ① 根質権者の請求により元本が確定した場合 ② 債務者もしくは根質権設定者の破産手続開始決定により元本が確定した場合。但し、根質権またはこれを目的とする質権の取得の電子記録の請求と併せてしなければならない(§42、Ⅱ、但書)

8.分割

(1)分割の制度を認めた趣旨
・資金調達の観点から電子記録債権の一部譲渡を認めた
・一部譲渡を実現する手段として分割債権記録を設けた

(2)分割の方法
・分割を公示するために ① 分割債権記録と原債権記録の両方に分割記録を行い ② 次に、分割記録に伴う記録(原債権記録から分割債権記録へ転記する記録等)する ・分割記録は分割債権記録に債権者として記録される者だけで請求することができる

(3)分割に際して行う記録の記録事項

① 分割記録の記録事項(§44)
・分割債権記録の記録事項 (ⅰ)原債権記録から分割をした旨 (ⅱ)原債権記録および分割債権記録の記録番号 (ⅲ)発生記録における債務者であって分割債権記録に記録されるものが一定の金額を支払う旨 (ⅳ)債権者の氏名等 (ⅴ)電子記録の年月日 ・分割記録については任意的記録事項はない

② 分割記録に伴う記録の記録事項(§45、46)
・原債権記録に記録されていた事項の転記や削除等については「分割記録に伴う記録」という概念の下で記録する
(ⅰ)分割債権記録についての記録 ⓐ 分割の対象となる部分についての原債権記録中の現に効力を有する記録事項の転写但し、§45、I、№1、イ~ホを除く ⓑ 分割払いの定めについての新規の記録 ⓒ 記録可能回数についての新規の記録 (ⅱ)原債権記録についての記録(§46、I) ⓐ 分割債権記録に新規に書き下ろした事項にかかる記録の削除(No.1) ⓑ 分割前の金額から分割債権記録に記録された金額を控除した残額を支払う旨(No.2) ⓒ 分割払いの定め(No.3、4) ⓓ 記録可能回復(No.5)

(4)主務省令への委任(§47)

第4.電子債権記録機関

1.通則

(1)電子債権記録業を営む者の指定

① 指定制
・業務を適正かつ確実に遂行するに十分な能力を求める必要があるため、電子債権記録業を営む者を指定制にしている(§51)
・指定制は、一般的に禁止されていない行為について指定を受けた者が行う場合に特別の法的効果を与える
・主務大臣は法務大臣及び内閣総理大臣(金融庁長官)

② 指定の要件 (ⅰ)組織形態
 株式会社
 取締役会、監査役会又は委員会、会計監査人という機関を設置していること
(ⅱ)欠格事由等
・申請者が過去5年間に電子債権記録業の指定を取り消されていないこと(No.2)
・この法律等により刑罰を受けていない(No.3)
・取締役等に成年後見人の欠格事由に該当する者がいない(No.4)
(ⅲ)財産的基礎
電子債権記録業を健全に遂行するために十分な財政的基礎を有し、かつ収入の見込みが良好であると認められること(№6)
(ⅳ)業務遂行能力
定款及び業務規程が法令に適合し、かつ電子債権記録等を適正かつ確実に遂行するために十分と認められること(N0.5、№7)

(2)資本金の額等

・資本金の額は政令で5億円以上と定められている

・純資産額は5億円以上

(3)電子債権記録機関の役職員の秘密保持義務(§55)

2.業務

(1)電子債権記録機関の業務(§56)

① 電子債権記録機関の業務
本法律および業務規程の定めに従って、電子記録債権に係る
子記録に関する業務を行う

② 兼業の禁止(§57)
・公正性、中立性の確保
・他業の破綻リスクの影響を遮断する
・子会社の形で設立することは可能である
(例)三菱東京UFJ銀行株式会社が子会社として日本電子債 権記録機関株式会社設立

③ 電子債権記録業の一部の委託(§58)
業務の一部を主務大臣の承認を受けて銀行等に委託することができる

(2)業務規程(§59)

業務規程において定められる事項は
・電子記録の実施の方法
・口座間送金決済に関する契約等
・その他の主務省令で定める事項

(3)利用者の保護(§60)
利用者に対し、事前周知や注意喚起などの対応が必要

(4)差別的扱いの禁止(§61)

3.口座間送金決済等にかかる措置

(1)電子債権記録機関の業務(§56)

① 電子債権記録機関の業務
本法律および業務規程の定めに従って、電子記録債権に係る電子記録に関する業務を行う

② 兼業の禁止(§57)
・公正性、中立性の確保
・他業の破綻リスクの影響を遮断する
・子会社の形で設立することは可能である
(例)三菱東京UFJ銀行株式会社が子会社として日本電子債 権記録機関株式会社設立

③ 電子債権記録業の一部の委託(§58)
業務の一部を主務大臣の承認を受けて銀行等に委託することができる

(2)業務規程(§59)

業務規程において定められる事項は
・電子記録の実施の方法
・口座間送金決済に関する契約等
・その他の主務省令で定める事項

(3)利用者の保護(§60)
利用者に対し、事前周知や注意喚起などの対応が必要

(4)差別的扱いの禁止(§61)

3.口座間送金決済等にかかる措置

(1)当事者からの請求に基づかない支払等記録
口座間送金決済等契約により振込みが行われ、銀行等から支払いが行われた旨の通知を受けた場合には、職権で支払等記録をする

(2)口座間送金決済についての支払等記録
「口座間送金決済」の具体的内容

① 電子債権記録機関、債務者および銀行等の三者が電子記録債権にかかる債務についての支払方法に関する契約を締結する(§62)

② ①の契約に基づいて、予め、電子債権記録機関が当該銀行に対し、債権記録に記録されている支払期日、支払うべき金額、債務者口座および債権者口座にかかる情報を提供し(§63、Ⅰ)

③ ②の情報に基づいて、支払期日に銀行等が債務の全額について、債務者口座から債権者口座に対する振込みの取扱いをする(§63、Ⅱ)

④ 電子債権記録機関は、銀行等から口座間送金決済があった旨の通知を受けたときは、職権で支払等記録が行われる(§63、Ⅱ)

(3)その他の契約に係る支払についての支払等記録
§64、§65に規定される「その他の契約に係る支払」の具体的手続

① 電子債権記録機関、債務者または債権者、銀行等が契約を締結(§64)

② ①の契約に基づいて、電子記録債権にかかる債務の債権者口座に対する振込みによる支払いが行われ

③ ②の支払があった旨の通知を電子債権記録関係が銀行等から受け

④ 業務規程において定めた方法について、職権(当事者からの請求に基づかない)で支払等記録を行う義務を負う(§65)

4.監督

(1)帳簿書類等の作成および保存(§67)

(2)認可事項、届出事項

① 資本金の額の変更(§69) ・資本金の減少 一 主務大臣の認可 ・資本金の増加 一 届出

② 定款または業務規程の変更(§7o)
主務大臣の認可

③ 電子債権記録業の休止の認可(§71)

④ 商号等の変更の届出(§72、I)

(3)報告および検査(§73、Ⅰ)

・業務または財産についての報告又は資料の提出を命じ、立入検査を行う

(4)業務改善命令(§74)

(5)指定の取消し等(§75)
・指定の取消
・6ヶ月以内の業務の全部又は一部の停止
・取締役等の解任命令

(6)業務移転命令(§76)
この事由に該当する場合には業務移転命令を出すことができる
① 電子債権記録機関の指定を取り消されたとき
② 電子債権記緑業を廃止したとき
③ 解散したとき
④ 支払不能または債務超過となることが客観的に予想されること

(7)債権記録の失効(§77)
・業務移転命令が発せられたにもかかわらず、その業務を移転することができなかったときは、記録原簿に記録された債権記録は効力を失う
・債権記録が効力を失った以降は、名債権として存続する

5. 合併、分割および事業の譲渡

(1)特定合併(§78)
電子債権記録機関を全部または一部の当事者とする合併(特定合併)については、主務大臣の認可を必要とする

(2)会社分割(§79、80)
新設分割、吸収分割いずれについても主務大臣の認可が必要

(3)事業譲渡(§81)
電子債権記録機関が他の株式会社に事業譲渡を行うには主務大臣の認可が必要

6. 解散等

(1)解散等の認可(§82)

(2)指定の失効(§83)

(3)指定取消等の場合のみなし電子債権記録機関(§84)

第5.雑則

1.信託(§48)

・信託の電子記録をしなければ、当該電子記録債権が信託財産に属することを第三者に対抗できない(§48、I)

・信託の電子記録に関し必要な事項は、政令で定める(§48、Ⅱ)

・信託財産についての強制執行(信託法§23、Ⅰ)

・受託者の破産手続(信託法§23、Ⅱ)

2.電子記録債権に関する強制執行等

(1)電子債権記録機関は強制執行等にかかる書類の送達を受けたときは、遅滞なく強制執行等の電子記録をしなければならい(§49、I)強制執行等の電子記録に関し必要な事項は政令で定める(§49、Ⅱ)

(2)強制執行等手続について最高裁規則で定める(§49、Ⅲ)

(3)電子記録債権については、債務名義を取得するための手形訴訟類似の制度は設けていない

3.政令への委任

§50

4.債権記録等の保存(§86)

(1)趣旨
電子記録の請求の有効性についての重要な証拠として、債権記録や請求情報の電子債権記録機関における保存義務を定めている(§86)

(2)保存期間
次の①または②の期間のうち、いずれかが経過する日まで、債権記録や当該債権記録に関する請求情報を保存しなければならない

① 債権記録上すべての権利義務が消滅した場合 5年間
§86、№1
電子記録債権の消滅時効期間(3年間)

② 電子記録がされないままとなっている場合 10年間
支払等記録も変更記録もない場合は、「支払期日」または「最後の電子記録がされた日」のいずれか遅い日から10年間

5.記録事項の開示(§87)

(1)法律上の開示請求権(§87、Ⅰ)

①電子記録名義人、②電子記録債務者として記録されている者、③その他の債権記録に記録されている者の一般承継人、財産の管理及び処分をする権利を有する者は、電子債権記録機関に対し、閲覧又は書面、電磁的記録による証明の記録の提供の請求ができる

① 電子記録名義人が開示請求者である場合(No1)
・電子記録名義人は、自已に帰属する権利についての電子記録の内容を自ら確認する正当な利益を有している
・過去の譲渡履歴等については、善意取得率人的抗弁の切断によって権利保護が図られているため、これらの情報を把握する必要性が乏しい。また当該譲渡等に関与した個々の事業者の情報は、取引先に関する情報で開示は好ましくないそこで、過去の譲渡履歴等は原則として開示の対象から除外した上で以下の事項に限って例外的に開示請求の対象とした (ⅰ)「通知の方法についての定め」(No.1)
「紛争の解決方法についての定め」
(ⅱ)個人が譲渡人または譲受人となっている過去の譲渡 記録(No.1 ロ)
善意取得
意思表示の無効、取消に関する第三者保護規定
(ⅲ)電子記録名義人が変更記録によって現在の債権者または質権者として記録されている場合における当該変更記録の前提となった譲渡記録等(N0.1、ハ)

② 電子記録債務者として記録されている者が開示請求をする場合(No.2)
・自己の債務にかかわる現在の債権記録の内容について広く開示請求権を認めている(§87、I、No.2柱書)
・電子記録債務者は、原則として電子記録名義人に対して支払えば免責される(§21)のであるから、過去の譲渡履歴等についてまで開示を受ける必要性は乏しいので、過去の譲渡履歴等については、原則として開示の対象から場外したうえで、以下の記録事項に限り例外的に開示請求の対象としている (ⅰ)電子記録名義人が変更記録によって現在の債権者又は質権者として記録されている場合における当該変更記録の前提となった譲渡記録等の記録事項(N0.2、イ) (ⅱ)譲渡人等に対して人的抗弁を有している場合における当該譲渡人等から電子記録名義人に至るまでの一連の譲渡記録等の譲渡人または質権者として記録されている者の氏名等(N0.2、口)人的抗弁を対抗するためには全ての害意を立証するため

③ 過去の債権者等が開示請求をする場合(№3) ・これらの者はすでに当該債権記録に記録されている電子記録債権とは基本的に関係のない立場にあるので、具体的に開示の必要性が認められる以下の記録事項に限って開示請求を認めている

(ⅰ)過去の債権者等が当事者として請求をした電子記録の内容等(N0.3、イ) (ⅱ)不真正な譲渡記録等がされている場合における当該譲渡記録等の譲受人等の氏名等
・原権利者が自己の債権記録上の現在の権利者で ある地位回復のため

(2)電子債権記録機関による記録事項の任意的開示(§87、Ⅱ)
ビジネス・ニーズに応じて、予め電子記録の請求をした者の同意があることを前提として、同意の範囲内で開示請求者の範囲や対象を拡張することができる

6. 請求情報の開示(§88)

(1)趣旨
他人に開示することが好ましくないため、一定の範囲に限定して いる

(2)自らが請求の当事者とかっている電子記録の請求情報(§88、柱書前段)
開示の対象は当該電子記録の請求に当たって電子債権記録機関に提供された情報

(3)他人が請求した電子記録の請求情報(§88、住吉後段)
他人の請求情報の開示を受けることについて、「正当な理由かおるときに」且つ開示の対象についても「当該利害関係がある部分」に限定している

(4)開示の方法等
業務規程の定めによる (例)書類の閲覧
書面の謄本、抄本の交付
電磁的記録の閲覧、書面の交付等

7. 主務大臣について

・民事法制に関する事務を所掌する法務大臣

・金融の円滑を図る金融庁の所管である内閣総理大臣

第6. その他

1. 手形における不渡や取引停止処分類似の制度

・どのような信用状態にある債務者と取引をするか
規定なし

2. 罰則

§93~§100

3. 金融商品取引法等との関係

・金融商品取引法上の有価証券とみなすか ― 政令に定める
附則§3

・企業の資金調達、債権流動化