民法改正(2013年6月27日現在)

第1 はじめに

1.改正の経緯

H18年1月 法務省民法改正に着手

学界の複数グループから成果公表

民法(債権法)改正検討委員会試案

H21年10月 法務大臣から法制審議会に諮問

改正目的 ①制定以来の社会、経済の変化への対応を図る ②国民一般に分かりやすい民法にする

改正の対象 国民の日常生活や経済活動にかかわりの深い契約に関する規定を中心に見直しを行う。

H21.11月 民法(債権関係)部会が設置され、審議開始

第一ステージ

H23.5月 中間的な論点整理

第二ステージ

H25.2月 中間試案 パブリックコメント

第三ステージ 「改正要綱案」取りまとめ
法制審議会で改正要綱答申
法案提出

2.「国民に分かりやすい民法」

①確立した判例ルールの明文化

(例)
債務不履行の救済手段、損害賠償、解除―日本民法のわかりにくさの象徴 契約交渉不当破棄 事情変更の原則

②不明確な条文の明確化

(例)
・意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。 ・債務の弁済は、第三者もすることができる

③法学の前提となる原則や概念の明文化

「法律行為」の定義 意思表示 契約に関する基本原則

日本民法の分かりにくい原因

学説継受の影響

(例)
条文はフランス法由来 解釈はドイツ法学によって解釈されその為条文に書かれていない 「過失責任主義」によって免責されると解釈される 判例は、フランス法に近い解釈 契約当事者が想定していない事態が生じたとき 債権者が債務不履行に加担したとき

3.「社会、経済の変化への対応」

・消滅時効制度 様々な職業ごとに1年、2年、3年の短期消滅時効 フランス民法に由来する

・法定利率 民事5% 商事6%

・約款 約款が契約内容になる要件が不明確

・債権譲渡

4.日本再生のための国家戦略

・EUでの契約法の統一の動き

共通欧州売買法

ドイツ
債務法(契約法)の現代化

フランス
民法の全面改正法案が進んでいる

・アジア市場

契約法の共通化

中国
契約法制定済み

韓国
財産法全面改正中

第2 現行民法の誕生について

1. 民法典の構成

第一編 総則


権利能力 行為能力

法人
・法律行為 意思表示(錯誤、詐欺) 代理 ・時効

第二編「物権法」

所有権

質権

抵当権

第三編「債権法」

大部分
※実質的には「契約法」― 改正の対象

第四編「親族法」

婚姻

親子

第五編「相続法」

2.「民法告達概略鈔」― 明治初期の我国の民法

第一 金穀貸借附利息ノ部 第二 動不動産及質入書入ノ部 第三 売買ノ部 第四 身代限ノ部 第五 戸婚ノ部 第六 訴訟入質 出訴期限ノ部 第七 訴答文例ノ部 第八 印税規則訴訟罫紙規則ノ部 第九 代人規則代言人規則ノ部 第十 雑ノ部

3.「民法」の意味

・日本にも「民法(個人と個人の関係に関するルール)」はあった。 ・日本は日本の固有法を承継しなかった。 ・日本は西洋法を承継した。

4.三つの「民法典」

「旧民法」

日本最初の民法典

ボワソナードが制定

1890年公布(施行されない)
明治23年公布 施行 1893年(明治26年)1月1日予定

「明治民法(現行民法)」

明治25年第3回帝国議会において「民法商法施行延期法律案」成立。明治29年迄延期。

財産法(総則、物権、債権) 1896年(明治29年)公布

親族、相続 1898年(明治31年)公布
全体が1898年施行

「昭和民法」

1947年改正 明治31年公布、施行の「親族相続」の改正法

5.「旧民法」と「明治民法」

(1)「旧民法」

フランス人ボワソナード起草

(2)明治民法

法典調査会 ・穂積陳重(のぶしげ)イギリス、ドイツで学んで「延期派」 ・富井政章 フランスで学んで帰朝後、穂積の影響を受けてドイツ法学を重視「延期派」 ・梅謙次郎 フランス、ドイツで学んで、ボアソナードの旧民法を高く評価して「断行派」梅の博識と類い稀なる調整能力なくては、日本民法典の速やかな制定は不可能であったろうと評価されている。

(3)「旧民法」はフランス式の体系

・人事編    人 ・財産編    財産 ・財産取得編  財産取得方法 ・債権担保編 ・証拠編

(4)「明治民法」はドイツ式の体系

(民法典) (ドイツ民法)
総則 総則
物権 債務
債権 物権
親族 家族
相続 相続

6.「旧民法」と「明治民法」の特徴

(1)共通点

(ア)個人と個人の関係に関する基本的な事項について一つの法典にまとめる。

(イ)平等な「人」を想定し、「所有権」を保護し、「契約」の自由を承認し「不法行為」につき過失責任主義をとっている。

(2)相違点

(ア)「旧民法」は戸籍や、国籍に関する規定を含むのに対し、明治民法は別の法律に委ねている。旧民法の証拠編は「明治民法」では民事訴訟法に移されている。

(イ)「旧民法」は「参政権」以外のすべての「権利」を対象とするのに対し、「明治民法」は私権と公権を区別する考え方に立っている。

7.法典論争(「旧民法」の断行派と延期派)

・対立の背景

(1)西洋化を急ぐべきだとする考え方(政府の立場)と日本の伝統を重視すべきだとする考え方(反政府の立場)の対立

(2)制定法を必要とする考え方(フランス系の法学校-司法省法学校、和仏法律学校(法政大学)明治法律学校(明治大学の立場)と慣習法や判例法を尊重する考え方(イギリス系の法学校―東京大学法学部、東京法学院(中央大学)の立場)の対立

(3)古い世代の実務法曹のフランス法的な考え方(フランス法を参考に裁判をしてきた司法官たちの立場)と新しい世代の学者たちの比較法的な考え方(大学教授であって明治民法の起草者たちの立場)の対立。

・延期派の代表、穂積八束(やつか)

「民法出デテ忠孝滅ブ

第一点に関する対立が明確

・反対派が勝利を収めた。

・「明治民法」を制定

①条約改正の条件整備

②国民国家形成の条件整備
国内の取引上の障害の除去

8.結末

(ア)「明治民法」は「旧民法」の半分以上が維持された。

(イ)修正作業では、約20ヶ国の諸外国の立法、判例などが参考とされた。「比較法の結実」といわれている。

(ウ)修正の第一は編別である。
ドイツ民法第一草案、第二草案を参考にしている。 パンデクテン体系を採用。

(エ)修正の第二は、総則編で「法人」制度、「法律行為」制度など。 ドイツ法学の成果が採用される。

(オ)規定の簡素化のため、旧民法典に多数含まれていた自明と思われる「定義」規定や「大原則」を示した規定等が整理、削除された。 ドイツ民法典2385ヶ条 フランス民法典2281ヶ条 日本民法典1146ヶ条

(カ)学説継受 明治民法の解釈論 ドイツの法理論をもとに精緻な解釈論を作り上げたのが鳩山秀夫。 日本民法の条文は半分くらいはフランスに由来しているが、条文を読んだだけでは絶対に出てこないドイツ式の理論が解釈論の名の下に精緻に体系的に作り上げた(これを「学説継受」と呼んだ)。 鳩山は東大の同僚末弘厳太郎から「横書きのドイツの理論を縦書きの日本語にしているだけだ」と厳しい批判を受け、結局学者を辞めて、衆議院議員になったり弁護士をしたりした。 鳩山の跡を継いだのが我妻栄で、我妻理論と呼ばれる非常に精緻な解釈論を完成させた。

第3 ローマ法からフランス民法制定まで

1. ローマ法の生成と編纂

「市民法」 ローマ市民だけに適用される法

「万民法」 外国人にも適用される法

「古典期ローマ法」 「市民法」と「万民法」が融合 意思表示 物権と債権 占有等民法上の基本概念がある。

ユスティニアヌス法典

534AD 法令にまとめた「勅法集」を公布

533Ad

「学説彙纂Digesta(パンデクテン)」 公布
「法学提要Institutiones」
ユスティニアヌス以降の法令をまとめた「新勅法Novellae」
「ローマ法大全」
ローマ法学の基礎

ガイウス

法学提要

①東ローマ皇帝ユスティニアヌスが533年学説法の要約、集大成である「学説彙纂」を法典として編纂

②選び抜かれた学説は、主として古典期法曹のものでパピニアヌス、パウルス、ウルビアヌス、モデイスティヌス、ガイウスの芸作が最も多かった。 パウルスは6分の1、ウルビアヌスは3分の1を占めた。 ガイウスの入門書「法学提要」は叙述きわめて簡明で理解しやすいため、古典期以後も読み継がれ、ユスティニアヌス法典の一部をなす「法学提要」はガイウスのそれに依拠して書かれた。

③ガイウスの「法学提要」の構成 人法、物法、訴訟法

④人法 ・自由人 ・奴隷
奴隷の解放
・婚姻
離婚を含む
・親子法
後見および監護
代理

⑤物法 ・所有権 ・相続法 ・法律行為による所有権の取得 ・所有権の原始取得 ・制限物権
地役権・用役権・質権
・消費貸借契約 ・売買契約 ・使用賃貸借・用益賃貸借・雇用契約・請負契約 ・組合法 ・無償の支援付給付 ・不当利得 ・不法行為

⑥訴訟法 ・訴権
自力救済
・権利行使、権利取得 ・執行

2. 中世ローマ法学から普通法へ

西ローマ帝国476AD滅亡

12世紀 中世ローマ法学 ボローニャ大学を初め大学でのローマ法研究

神聖ローマ帝国 ローマ法が普通法として適用される。

ドイツ 19世紀末までローマ法が「普通法」として適用される。

フランス 南部慣習法にはローマ法の影響が強い。

3. ナポレオン法典編纂

1800年 ナポレオンは36の単行法を制定する。

1804年3月21日 法律によって単行法を一つに統合されてフランス民法典となる。 婚姻の教会からの自由 唯一絶対の所有権の保護 契約内容決定の自由 「19世紀のローマ法」と呼ばれた。

第4 世界の民法改正

1. ヨーロッパの民法編纂と最近の状況

(1)ドイツの場合

・19世紀ドイツでは、ローマ法を整理し体系化する。パンデクテン法学が非常に発達した。

・1900年。ドイツ民法典成立
20世紀を代表する民法典
日本、中国(中華民国民法典)、韓国には強い影響を及ぼした。

(2)ドイツ、フランスの債務法(債権法)改正

・ドイツ
2000年「債務法現代化法」制定
2002年施行

・フランス
2004年フランス民法典二百周年 シラク大統領債務法改正に言及 2005年 カタラ委員会による改正案発表

(3)EU

ア EU指令による部分的均質化を超えて「契約法自体を統一」しようとする動きが生じている。

イ ドイツ
国際派
アメリカ法を中心とするグローバリゼーションに積極的に参加する。
国内派
ドイツ民法の法律を守る。

ウ フランス
国際派
共同体立法を積極的に関与してEU内部の主導権を握ろうとする。
国内派
フランス民法の価値を守る。

2. 東アジアの民法編纂と最近の状況

中国本土とその周辺部

(1)中国大陸 中華民国
1929年~1931年民法典公布
民商共通法典

(2)台湾 ・日本民法典は台湾にも適用された。 ・物権に関しては慣習による。 ・内地人が関与しない事件は、従来の例による。 ・中華民国が台湾に移った後は中華民国法が適用される。

(3)朝鮮半島 1910年 日本統治 1912年 朝鮮民事令
① 民法典を適用
② 朝鮮人相互間の法律行為については慣習による
③ 民法典の法律中、能力、親族相続に関する規定は朝鮮人に適用しない。
1958年 韓国民法制定
日本学説の影響が現われていたが、その後の韓国学説は、ドイツ法の影響を強く受けている。

(4)中国の場合 社会主義市場経済 1980年 民法総則制定 1999年 契約法(合同法)制定(契約に関するルールがまとめて取り込まれている。) 2007年 物権法 2009年 不法行為法

3. 契約法統一の背景(EU)

(1)市場は今後、拡大し続ける

EU、NAFTAに加え、東アジアでも生じてくる。

TPPも現実の目標となる。

世界の市場は、統合までいかなくとも、形が共通化していく。

その法的プラットフォームをなしている契約法も次第に共通化していくと考えられる。

(2)ヨーロッパの統一契約法はグローバルスタンダードの形成を意味する。

①世界銀行は、年報の中で「世界の法制度をランキング」している、「法輸出」とも言う。
フランス、ドイツ等は、世界のモデルとなる法制度を作って輸出をしている。

②国際取引においては、リスクを避けるために、イギリス法を準拠法に指定するという慣行もある。
1980年代は、国際売買を対象として「ウィーン売買条約」が締結された。76ヶ国が加入している。
日本は、2008年になって加入した。
その間に、ウィーン条約をめぐる判決、仲裁判例(2011.8.11現在) ドイツ  475 中国   424 アメリカ 148 日本   1

③市場の拡大に伴って、契約法が国際的に共通化する。
どのような契約法が国際標準になるか各国の市場競争がなされている。

第5 民法改正「中間試案」

Ⅰ. わかりやすい民法

1.債務不履行の救済手段

① 債権の請求力 債権者は債務者に対して、その債務の履行を請求することができるものとする。

② 契約による債権の履行請求権の限界事由(第9,2新設) 契約による債権(金銭債権を除く)につき次に揚げるいずれかの事由(以下「履行請求権の限界事由」という)があるときは、債権者は債務者に対して、その履行を請求することができないものとする。 ア.履行が物理的に不可能であること。 イ.履行に要するに費用が、債権者が履行により得る利益と比べて著しく過大なものであること。 ウ.その他、当該契約の趣旨と照らして、債務者の債務の履行を請求することが相当でないと認められる事由。
従来は「履行不能」の問題とされた。

③ 履行の強制 民法414条の規律を次のように改めるものとする。 (ⅰ) 債権者が履行の請求をすることができる場合において、債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法の規定に従い直接強制、代替執行、間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができるものとする。ただし、債務の性格がこれを許さないときは、この限りでないものとする。 (ⅱ) 上記(ⅰ)は、損害賠償の請求を妨げないものとする。 (ⅲ) 民法第414条第2項及び、第3項を削除するものとする。

2. 債務不履行による損害賠償

(1) 債務不履行による損害賠償とその免責事由
民法第415条前段の規律を次のように改めるものとする。

(ⅰ) 債務者がその債務の履行をしないときは、債権者は債務者に対し、その不履行によって生じた損害の賠償を請求することができるものとする。

(ⅱ) 契約による債務の不履行が、当該契約の趣旨に照らして債務者の責に帰することのできない事由によるものであるときは、債務者は、その不履行によって生じた損害を賠償する責任を負わないものとする。

(ⅲ) 契約以外による債務の不履行が、その債務が生じた原因その他の事情に照らして債務者の責めに帰することのできない事由によるものであるときは、債務者は、その不履行によって生じた損害を賠償する責任を負わないものとする。

(2) 債務の履行に代わる損害賠償の要件
民法第415条後段の規律を次のように改めるものとする

 (ⅰ) 次のいずれかに該当する場合には、債権者は、債務者に対し債務の履行に代えて、その不履行による損害の賠償を請求することができるものとする。 ア.その債務につき履行請求権の限界事由があるとき。 イ.債権者が債務不履行による契約の解除をしたとき ウ.上記イの解除がされていない場合であっても債権者が相当期間を定めて債務の履行の催告し、その期間内に履行がないとき

(ⅱ) 債務者がその債務の履行をする意思がない旨を表示したことその他の事由により、債務者が履行をする見込みがないことが明白であるときも、上記(ⅰ)と同様とするものとする。

(ⅲ) 上記(1)又は(2)の損害賠償を請求したときは、債権者は債務者に対し、その債務の履行を請求することができないものとする。

(3) 履行遅滞後に履行請求権の限界事由が生じた場合における損害賠償の免責事由

 履行期を経過し債務者が遅滞の責任を負う債務につき履行請求権の限界事由が生じた場合には、債務者は、その限界事由が生じたことにつき前記①(ⅱ)又は(ⅲ)の免責事由があるときであっても、前記(2)の損害賠償の責任を負うものとする。ただし履行期までに債務を履行するかどうかにかかわらず履行請求権の限界事由を生ずべきであったとき(前記①(ⅱ)または(ⅲ)の免責事由があるときに限る)は、その責任を免れるものとする。

(4) 代償請求権

 履行請求権の限界事由が生じたのと同一の原因により債務者が債務の目的物の代償と認められる権利又は利益を取得した場合において、債務不履行による損害賠償につき前記①(ⅱ)又は(ⅲ)の免責事由があるときは、債権者は、自己の受けた損害の限度で、その権利の移転又は利益の償還を請求することができるものとする。
 (注) 前記①(ⅱ)又は(ⅲ)の免責事由の要件を設けないという考え方がある。

(5) 契約による債務の不履行における損害賠償の範囲
民法第416条の規律を次のように改めるものとする。

(ⅰ) 契約による債務の不履行に対する損害賠償の請求は、当該不履行によって生じた損害のうち、次は掲げるものの賠償をさせることをその目的とするものとする。 ア.通常生ずべき損害 イ.その他、当該不履行の時に、当該不履行から生ずべき結果として債務者が予見し、又は契約の趣旨に照らして予見すべきであった損害

(ⅱ) 上記(ⅰ)に掲げる損害が、債務者が契約を締結した後に初めて当該不履行から生ずべき結果として予見し、又は予見すべきものとなったものである場合において、債務者がその損害を回避するために当該契約の趣旨に照らして相当と認められる措置を講じたときは、債務者は、その損害を賠償する責任を負わないものとする。

(6) 過失相殺の要件、効果

 民法第418条の規律を次のように改めるものとする。
債務の不履行に関して、又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関してそれらを防止するために状況に応じて債権者に求めるのが相当と認められる措置を債権者が講じなかったときは、裁判所は、これを考慮して損害賠償の額を定めることができるものとする。

(7) 損益相設 

 債務者が債務の不履行による損害賠償の責任を負うべき場合において債権者がその不履行と同一の原因により利益を得たときは、裁判所はこれを考慮して、損害賠償の額を定めるものとする。

(8) 金銭債務の特則

(ⅰ) 民法第419条の規律に付け加えて、債権者は、契約による金銭債務の不履行による損害につき、同条第1項及び第2項によらないで損害賠償の範囲に関する一般原則(前記⑤)に基づき、その賠償を請求することができるものとする。

(ⅱ) 民法第419条第3項は削除するものとする。
(金銭債務の履行遅滞についても債務不履行の一般原則による)

(9) 賠償額の予定

(ⅰ) 民法第420条第1項後段を削除するものとする。(裁判所は損害額を増減できる)

(ⅱ) 賠償額の予定をした場合において、予定した賠償額が、債権者に現に生じた損害の額、当事者が賠償額の予定をした目的その他の事情に照らして著しく過大であるときは、債権者は、相当な部分を超える部分につき、債務者にその履行を請求することができないものとする。

3.契約の解除

(1) 債務不履行による契約の解除の条件
民法第541条から第543条までの規律を次のように改めるものとする。

(ⅰ) 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めて履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができるものとする。ただし、その期間が経過した時の不履行が契約をした目的の達成を妨げるものでないときは、この限りでないものとする。

(ⅱ) 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、その不履行が次に掲げるいずれかの要件に該当するときは、相手方は上記 (ⅰ)の催告をすることなく契約の解除ができるものとする。 ア.契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したこと。 イ.その債務の全部につき、履行請求権の限界事由があること。 ウ.上記ア又はイに掲げるもののほか、当事者の一方が上記(ⅰ)の催告を受けても契約をした目的を達するのに足りる履行をする見込みがないことが明白であること。

(ⅲ) 当事者の一方が履行期の前にその債務の履行をする意思がない旨を表示したことその他の事由により、その当事者の一方が履行期に契約をした目的を達するのに足りる履行をする見込みがないことが明白であるときも、上記(ⅱ)と同時とするものとする。

(注) 解除の原因となる債務不履行について「債務者の責めに帰することができない事由」を規定しない。

(2) 契約の解除の効果
民法第545条の規律を次のように改めるものとする。

(ⅰ) 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その契約に基づく債務の履行を請求することができないものとする

(ⅱ) 上記(ⅰ)の場合には、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負うものとする。ただし、第三者の権利を害することはできないものとする。

(ⅲ) 上記(ⅱ)の義務を負う場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付けなければならないものとする。

(ⅳ) 上記(ⅱ)の義務を負う場合において給付を受けた金銭以外のものを返還するときは、その給付を受けたもの及びそれから生じた果実  を返還しなければならないものとする。この場合において、その給付を受けたもの及びそれから生じた果実を返還することができないときは、その価額を償還しなければならないものとする。

(ⅴ) 上記(ⅳ)により償還の義務を負う者が相手方の債務不履行により契約の解除をした者であるときは、給付を受けるものの価額の償還義務は、自己が当該契約に基づいて給付し、若しくは給付すべきであった価額又は現に受けている利益の額のいずれか多い額を限度とするものとする。

(ⅵ) 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げないものとする。

4.事情変更の法理

 契約の締結後に、その契約において前提となっていた事情に変更が生じた場合において、その事情の変更が次に掲げる要件のいずれかにも該当するなどで一定の要件を満たすときは、当事者は、【契約の解除/契約の解除又は契約の改訂の請求】をすることができるものとするかどうかについて引き続き検討する。

ア.その事情の変更が契約締結時に当事者が予見することができず、かつ当事者の責めに帰することのできない事由により生じたものであること。

イ.その事情変更により、契約をした目的を達することができず、又は当初の契約内容を維持することが当事者間の衡平を著しく害することとなること。

5.不安の抗弁権

 双務契約の当事者のうち自己の債務を先に履行すべき義務を負う者は、相手方につき破産手続開始、再生手続開始又は更生手続開始の申立があったことその他の事由により、その反対給付である債権につき履行を得られないおそれがある場合において、その事由が次に掲げる要件のいずれかに該当するときは、その債務の履行を拒むことができるものとする。ただし、相手方が弁済の提供をし、又は相当の担保を供したときは、この限りでないものとする。

ア.契約締結後に生じるものであるときは、それが契約締結の時に予見することができなかったものであること

イ.契約締結時に既に生じていたものであるときは、契約締結の時に正当な理由により知ることができなかったものであること。

6.賃貸借に類似する契約

(1) ファイナンス・リース契約
賃貸借の節に次のような規定を設けるものとする

ア.当事者の一方が相手方の指定する財産を取得してこれを相手方に引き渡すこと並びに相手方のよる当該財産の使用及び収益を受忍することを約し、相手方がその使用及び収益の対価としてではなく当該財産の取得費用等に相当する額の金銭を支払うことを約する契約については、民法第606条第1項、第608条第1項その他の当該契約の性質に反する規定を除き、賃貸借の規定を準用するものとする。

イ.上記アの当事者の一方は、相手方に対し、有償契約に準用される売主の担保責任を負わないものとする。

ウ.上記アの当事者の一方がその財産の取得先に対して売主の担保責任に基づく権利を有するときは、上記アの相手方は、その当事者の一方に対する意思表示により、当該権利(解除権及び代金減額請求権を除く。)を取得することができないものとする。

(2) ライセンス契約
賃貸借の節に次のような規定を設けるものとする。

 当事者の一方が自己の有する知的財産権(知的財産基本法第2条第2項参照)に係る知的財産(同条第1項参照)を相手方が利用することを受忍することを約し、相手方がこれに対して、その利用料を支払うことを約する契約については、前記4(2)から(5)まで(賃貸人たる地位の移転等)その他当該契約の性質に反する規定を除き、賃貸借の規定を準用するものとする。

Ⅱ.民法の現代化

①時代に合わなくなった規定の現代化

②民法が起草された時代には存在しなかった現象に対する対応

③自然災害の多い日本に適した民法

1.消滅時効

原則10年

短期消滅時効 飲食料  1年 売掛債権 2年 診療債権 3年

フランス民法に由来

2008年の民法改正で整理(フランス民法)
商事債権  5年

ドイツ民法(2001年債務法改正)

30年から3年に改正 主観的起算点
客観的起算点 10年

フランス法(2008年改正)

30年から5年に改正 主観的起算点
客観的起算点 20年

国連の時効条約
4年

改正のあり方
国際標準として通用するもの

不法行為による損害賠償債権
3年
20年-除斥期間ではなく時効期間と言われている。

     

2.法定利率

 現在
年5%
(商事法定利率6%)

・当時のヨーロッパの民法典の例に倣った。

・改正の方向

変動制にして年1回か2回改定する。
中間利息の控除

(例) 死亡者の損害賠償についての逸失利益 原状で据え置く 変動制にするにしても、過去30年間の平均値を基準にする 日本独特の算定方法

3.約款

 ①約款とは、多数の相手方との契約の締結を予定して、あらかじめ準備される契約条項であって、それらの契約の内容を画一的に定めることとして使用するものを言うとする。 ・保険約款 ・電気ガスなどの公共的なサービスの提供約款 ・鉄道、航空、バスなどの公共交通機関の利用約款 ・約款は交渉の対象とならないため、内容の合理性は当事者の合意によって担保されることはない。 ・各種業法によって、約款に認可は要求されている。

②約款の拡大 ネット取引

③約款問題の新しさ ・20世紀中葉以降問題となる ・交渉せず、読んでいない条件が、どうして契約の内容になるのか。 ・大量の相手方との画一的な契約という取引構造からして、交渉に応じないことがそれなりに合理性をもつ。

④コントロールの二つの次元 ・合意をしても、契約内容の合理性を争うことが出来る。 ・契約法のルールによって、内容を補う必要ある。 ・組入れ要件

⑤約款の組入れ要件の内容
契約の当事者がその契約に約款を用いることを合意し、かつ、その款を準備した者(以下「約款使用者」という)によって、契約締結時までに、相手方が合理的な行動を取れば約款の内容を知ることができる機会が確保されている場合には、約款は、その契約の内容となるものとする。

⑥不意打ち条項
約款に含まれている契約条項であって、他の契約条項の内容、約款使用者の説明、相手方の知識及び経験その他当該契約に関する一切の事情に照らし、相手方か約款に含まれていることを合理的に予測することができないものは、上記2によっては契約の内容とはならないものとする。

⑦約款の変更
約款の変更に関して、一定の規律を設けるかどうかについて、引き続き検討する。 (注) 法令の改正や社会の状況の変化により、約款の内容を画一的に変更すべき必要性が生ずることがあるため、要件の当否について検討

⑧不当条項規制
前記⑤によって、契約の内容となった契約条項は、当該条項が存在しない場合に比し、約款使用者の相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重するものであって、その制限又は加重の内容、契約内容の全体、契約締結時の状況その他一切の事情を考慮して相手方に過大な不利益を与える場合には無効とする。

Ⅲ.民法のルールの透明性向上

1.基本用語「法律行為」の定義

2.いわゆる暴利行為

3.意思表示 錯誤

4.契約交渉の不当破棄
契約を締結するための交渉の当事者の一方は、契約が成立しなかった場合であっても、これによって相手方に生じる損害を賠償する責任を負わないものとする。ただし、相手方が契約の成立が確実であると信じ、かつ、契約の性質、当事者の知識及び経験、交渉の進捗状況その他交渉に関する一切の事情に照らしそのように信ずることが相当であると認められる場合において、その当事者の一方が正当な理由なく契約の成立を妨げたときは、その当事者の一方は、これによって相手方に生じた損害を賠償する責任を負うものとする。

5.契約締結過程の情報提供義務
契約の当事者の一方がある情報を契約締結前に知らずに当該契約を締結したために損害を受けた場合であっても、相手方は、その損害を賠償する責任を負わないものとする。ただし、次のいずれにも該当する場合には、相手方はその損害を賠償しなければならないものとする。 ①相手が当該情報を契約締結前に知り、又は知ることができたこと。 ②その当事者の一方が当該情報を契約締結前に知っていれば当該
契約を締結せず、又はその内容では当該契約を締結しなかったと認められ、かつ、それを相手方が知ることができたこと。
③契約の性質、当事者の知識及び経験、契約を締結する目的、契約交渉の経緯その他当該契約に関する一切の事情に照らし、その当事者の一方が自ら当該情報を入手することを期待することができないこと。 ④その内容で当該契約を締結したことによって生ずる不利益をそ の当事者の一方に負担させることが、上記(3)の情報に照らして相当でないこと。

6.契約の解釈
① 契約の内容について当事者が共通の理解をしていたときは、契約は、その理解に従って解釈しなければならないものとする。 ② 契約の内容についての当事者の共通の理解が明らかでないときは、契約は、当事者が用いた文言その他の表現の通常の意味のほか、当該契約に関する一切の事情を考慮して、当該契約の当事者が合理的に考えれば理解したと認められる意味に従って解釈しなければならないものとする。 ③ 上記(ⅰ)及び(ⅱ)によって確定することができない事項が残る場合において、当事者がそのことを知っていれば合意したと認められる内容を確定することができるときは、契約は、その内容に従って解釈しなければならないものとする。

中間試案の内容

Ⅰ.民法総則の部分

・法律行為

・意思能力

・意思表示

・代理

・無効、取消

・条件、期限

・消滅時効

Ⅱ.債権総論の部分

・債権の目的

・履行請求等

・債務不履行による損害賠償

・契約の解除(本来は各論)

・危険負担(本来は各論)

・受領遅滞

・債権者代位権

・詐害行為取消権

・多数当事者の債権及び債務

・保証債務

・債権譲渡

・有価証券

・債務引受

・契約上の地位の移転

・弁済

・相殺

・更改

・免除

Ⅲ.債権各論の部分

1.契約総論の部分

・契約に関する基本原則等

・契約交渉段階

・契約の成立

・契約の解釈

・約款

・第三者のためにする契約

・事情変更の法理

・不安の抗弁

・継続的契約

2.契約各論の部分

・売買

・贈与

・消費貸借

・賃貸借

・使用貸借

・請負

・委任

・雇用

・寄託

・組合

・終身定期金

・和解